記憶追加について

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一般生徒の記憶1【ある女生徒Aの記憶】一覧

●気味の悪さに震えが止まらない。それを認めたく無くて、あたしはそこを指差して大声で叫んだ。
「ありえないんだって!あ、あたしここのネイルサロンいつも使ってるけど、こんなとこなかったもん!」

●そうか、とあたしは納得する。全部正しかったんだ。あたしが間違ってたんだ。ほんとに――はいて、皆は――の怒りを買ったんだ。

●よかった。いつもと変わらない。あたしは友達がたむろする場所に小走りで向かった。「ねー聞いてよー私ってば超変な夢みたのー」

●おかしいな、あたし誰とクレープ食べに行く予定だったんだろ。一人クレープなんてガラじゃないし、そんなにメンタル強くないのに。

●「ね、知ってる?ほら、この間言ってたとこ。マスコミがうろついてたらしいよ」友達の話にあたしは首を傾げる。「え?マスコミ?ここってそういう人はいっちゃダメじゃなかった?」

●いい気味だと思う。ちょっと澄ました感じのあそこの背後にいるのがそんな組織だなんて。ほんとだったら信用はがた落ちするだろう。

●あたしは帰省届けを出しにセンターに向かった。そこでも友達が言ってた噂話をしてる人たちがいて、ついつい視線がそっちに行ってしまう。

●「ね、あの雑誌見た?超うけるよね」友達の言葉に笑って頷く。自分に関係ない、でもちょっと身近な場所がスキャンダル持ちというのは中々におもしろいのだ。

●「ねぇあの子あんなんだったっけ?」あたしが聞くと友達は、知らないの?と言った。「あの子が噂の――――らしいよ」【12月27日の記憶】

●「え、受理できない?」センターのおじさんが言ってる意味が分からなかった。5年間一度もそんな事言われた事無かったのに。

●「あれ……なにここ。空が明るい……もう朝?」ぼんやりする目をこすりながら辺りを見る。夕方みたいな空だけどありえないし、となると夜明け?

●「辛い現実に戻らなくても良いじゃない!ここなら望みは何でも叶う。望みの世界でなりたい自分になればいいじゃない!」それの言葉はとても魅力的だった。

●最初に広まった噂は「聖フィアナの背後について」あのちょっとお高くとまった感じの女子校がカルト教団の建てた奴だときくと本当にそう思えてくるから面白い。

●「言われてみればそうだよねー。口外しないみたいな誓約書書かされるし」友達の同意を受けて私も大きく頷く。「そうそうそれにさ、SNSとかもチェックされてる〜とか言う噂だよ?」

●でも思い出せない。いや、そもそも気のせいだったのかも。もしかしたら友達といけたらいいねーみたいなことを言いあって、それを本気にしてただけなのかもしれない。

●そもそも聖フィアナはちょっと閉鎖的で、お嬢様って雰囲気で好きじゃなかった。魔女とかいかにもじゃないか。妖しげで、秘密主義なとことかそっくりだ。

●この町は異常に「情報漏洩」とやらに厳しい。たまに生徒会室に出入りする人たちは特にそういうのが厳しいらしくて、こっちがどれだけ何してるのか聞いても教えてくれないのだ。

●でもそうすると気になる事もあったりする。友達がみた「うろついてたマスコミ」ってどこに出たんだろう。電車にのってきても、基本部外者は駅で拒否されると聞く。

●じゃあマスコミは部外者じゃなかったんだろうか。学校の関係者とか、商業区とか。「まさかね」そうだとしても通過は出来ないだろう。気になるが悪い頭じゃ良い案なんて浮かばない。

●気のせい?でも、何でだろう。気のせいだと思おうとすればするほど、心の中で違うって言ってる自分がいる。忘れたの?でも何を?いや、誰を?

●「残す人が心配?あははは君が去る事を惜しむ人なんているのかな?まぁ安心しなよ!」どうせすぐに全部全部忘れちゃうからさ――とそれは笑ってあたしに手を伸ばした。

●「えーあんたも?実は私もなのー」「嘘、どんな夢だったの?」まさか2人そろって悪夢を見るなんて思わなかったからあたしは思わず尋ねた。

●「でもさ、それが見れたら“合格”らしいよ」合格?ってことは―――――できるということだろうか。なら問題ない。あの気持ち悪い夢も許せる。【12月29日の記憶】

●【12月31日18時:データがありません】


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一般生徒の記憶2【ある男子生徒Aの記憶】一覧

●学生の町なんてのはつまらないものだ。学生向けの娯楽しかないし、町の隅々まで学校の目が行きとどいてる気がする。
だから冬休みになって突然広まったそれは、退屈した学生の良い刺激剤になってたと思う。

●噂にのってこないやつもいた。たかが噂、都市伝説なんだからちょっとくらいノッてもいいのに、金のせいじゃない?とかスル―する奴ら。何かと会長に呼びだされたりしてる奴らだから俺らとは違うのかね

●「どうして、なんで――が!」怒声が聞こえた。責める様な声。みっともなく震えて隠れていた俺は姿を見れなかったが、相手はそれを聞いて可笑しそうに笑っていた。

●俺は思わず飛び上がってガッツポーズしたい衝動にかられた。聞いてた通りだ。俺は――に呼んでもらえたのだ。

●「もう、朝なのか……? どこだ、ここ……」ぼうっとする頭で辺りをみまわす。そこは見た事のある様な、無い様な、不思議な世界だった。

●「何だよ秘密って、教えろよ〜」隠すつもりはそんなになかったのか、そいつはすぐに秘密とやらを教えてくれた。それは到底信じられない話だったが、変わったこいつが何よりの証拠だ。

●もし噂を体験出来た時は皆に教えてあげると良い、と教えてくれたそいつは笑って言った。どうせ嘘だろうが試してみるのも面白いだろう。俺は頷いた。

●聖フィアナの背後、明松財団について。なんでも世界屈指な財団の裏の顔はカルト教団だったという話だ。随分と中二病ッぽいが話のネタにはもってこいだ。

●というか、そういう奴らは大体話を聞くと変なリアクションをする。他の奴らみたいに冗談だとおもってきくのではなく、まるで重要な秘密を聞いたみたいに驚くのだ。

●やっぱりあいつらは隠していたのだ。自分たちだけ――にあって、――――もらうために。だからいけすかなかったのだ。今なら分かる。

●それは本屋で見つけた。全く知らない名前の雑誌だったが、表に出てるのを見るとそこそこ売れてる雑誌だったりするのだろうか。

●「会長――っ!」聞いた事も無い絶叫を迸らせて、あいつは走り出した。隠れてた俺に気付く事も無く、片手を伸ばしてそれを掴もうとする。


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一般生徒の記憶2【ある女生徒Bの記憶】一覧

●私は祈った。ただ祈ればいい、祈りは必ず届くと教えてもらった。どうか私を変えてください、と私は何度も何度も祈った。

●間抜けな鯉みたいに口を開けて私を見るのが面白かった。私は変わったのだ。――のおかげで私は生まれ変わったのだ。

●地味だ地味だとずっと笑われた。そのくせちょっとリボンを可愛いのにしたり、流行りの髪型にするとそれも笑うのだ。私はずっとそんな自分を変えたいと思ってた――。

●メールを受けて私は走った。メールの内容はずっと待っていたもので、でももう無理だと思ってたもので、早く行かないとそれが嘘になってしまう気がしたのだ。

●あぁ、そうだ。伝えなくては。それが約束だ。あの人から秘密を教えてもらう時にした約束。起きて願いが叶っていたら、必ずそれを誰かに伝える事。

●嫌、嫌、聞きたくない。見たくない。やめて。なんでこんなことするの。悲鳴は声にならず、掠れた声だけが零れていく。

●ぐらりと平衡感覚が奪われる様な感じ。一瞬転びそうになり、なんとか立て直すと次の瞬間にはその違和感は消えていた。

●変わったね。別人みたい。どうして?どうやったの?砂糖にたかる蟻みたいに私に向かってくる生徒達。心の中では軽蔑して、馬鹿にしていたが約束がある。私は口を開いた。

●どうやら随分時間が経っていたようだ。だけど問題は無い。ここまで変えてくれたのだ。少しくらいの時間なんて惜しくは無いのだ。


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開封された一般人の記憶(分類不可能分)

●非常に月並みな表現だが、それはチェシャ猫が笑うようだった。顔が見えないのに、確かにそれが、にぃ、と笑った気配を俺は感じたのだ。【12月29日の記憶】

●何故教えてくれたの、と訊くとその人は当然の様に笑って、必死に願った君にご褒美といったところだ、と言った。僕の願いを、存在を受け入れてくれた事がたまらなくうれしかった。

●もうすぐだ。これが完成すれば新たな歴史の誕生の目撃者となれる。我々は更に研究を進めた。

●強くなりたかった。男社会の中で強さというのは必須に近い。腕力でも良い、頭でもいい、何か強いと言えるものが無く、意志も弱い者は大体淘汰される運命だ。

●ずっと勘違いをしていた。仲間などではなかったのだ。あれは最初からこちらを利用し、食らいつくす気でいたのだ。

●誰かに呼ばれた気がして目蓋を開けた。なんてことない動作なのに、まるで何カ月ぶりにしたかのように随分と重く感じた。

●「くふふ、うふふふふふっ。あ、いつか君の記憶を見る人もいるのかなぁ。何だかそう考えるとタイムカプセルみたいだなとか思わない?やっほー。元気ー?夢ライフ楽しんでるー?」
●あぁいる。そこに確かに立っている。ずっと待ってた人。ずっと待ってた奇跡。それが今ここに起きたのだと教えてくれる。

●「どうも生徒達が浮足立ってるような気がしますね」そういうと同僚は何をいまさらという顔をした。「冬休みで帰省しますから浮かれてるんでしょう」

●準備をしていると店長とスタッフの会話が聞こえた。「あれ、バイトの子今日一人だけか?」「病欠だそうですよ。病院から連絡がきました」病欠――ここでも、また。

●どうして教えてくれるの、と問えばそれは酷く優しい目をして答えた。「夢を持つ人を応援するのが好きなのだ」と

●「じゃああの人たちは全部知ってたって事?」クラスメイトの質問に頷いてみせる。そうだ。あいつらは知ってて自分たちだけ利を得ていたのだ。

●嫌だ。嫌だ。せっかく変わったのに、せっかく――に――――もらったのに。

●哀れな奴らだと笑いが止まらない。どれほど努力しようと無駄なのだ。初めから全てこちらの手の上で踊っているだけだと気付かない哀れな人形。

●全くめでたい連中だ。出し抜かれるという事を知らないのだろう。手を差し出せば握り返すと思っている。協力を申し出ると思っている。そう思うなら思っていれば良い。

●やつらは抗おうとしているらしいが無意味な事だ。そもそもあいつらは何も分かっていない。夢世界の事も、特権の事も、何もかも。

●あぁ、消えていく。消えてしまう。全てが、集めてきた英知が、己が、消えてしまう。こんなはずではなかったのだ。

●怒りを向けてくる意味が理解できない。騙されたのはそっちだ。勝手にこっちを信じて、勝手に協力しようだなんて言って、馬鹿馬鹿しい。


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綾華・開封記憶

一般人の記憶3つ解禁
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イム・開封記憶

一般人の記憶10つ解禁
記憶の欠片の1つが「日時の開封」に使われています。

【カミオ】
●「駄目だ。これ以上使っちゃダメ。今すぐ離脱して!」悲鳴に近い朱音会長の声が脳裏に届く。だけど離脱なんて出来る筈がない。目の前に危機にひんした生徒がいるというのに。【12月29日の記憶】

●寮内の雰囲気は一言でいえば異様だった。まるで何かに取りつかれた様に一つの噂話について話しあっている。

●「そう。大丈夫かしら会長さん。なんだか悩んでるみたいだったから……」巴絵は困った様に頬に手を当てて甘いため息をついていた。

●「そうしかめっ面しないでよお嬢さん!ここは楽しい楽しい夢の中じゃないか!」ケタケタ笑いながら言うそれに、本能的な嫌悪を感じずにはいられなかった。

●数日前も酷かったが、今回は内容が内容だからだろうか。話す方も聞く方も、何か欲望という亡霊に取りつかれたかのようだった。

●最も、その必死さは現実逃避という意味もあるのかもしれないが。制服を着ているだけで悪意や好奇の視線にさらされるのではたまったものではないだろう。

●消える、消えていく、消えてしまう。消失を察した――がこちらに顔を向け、こちらも手を伸ばすがあと一歩のところで届かない。それは完全に粒子へと変わった。

●「キミはどうして夢を見る?キミはどうして夢に来る?キミの夢って何?現実って何?」それは大仰に右手を振る。その向こうに突如現れたものの姿に、思わず声を失った。

●「アタシは大丈夫。そっちもちゃんと休んどきなよ」気丈に笑顔を浮かべていたが、朱音会長の目には明らかに疲労が見て取れた。

・瞬きを一つ。それだけしかしていない。こちらを思い浮かべたわけでも、水たまりを見たわけでもない。なのに、目の前に広がるのは黄昏の空だった。【12月29日の記憶】

・それは今までにも増して明確な違和感だった。一度だって疑った事のない自分の相棒。その感覚がぶれた。まるで、自分の相棒が他人から与えられた借りものに過ぎない様な、そんな違和感。【12月29日の記憶】

・ふわり、と全身に広がる浮遊感。同時に世界から自分が切り取られていく感覚。「――会長?!」思わず叫んだ。本気だ。本気で会長はカミオだけを離脱させようとしている。【12月29日の記憶】

・脳裏に届く声は独りごとの様な呟きだ。「ごめん、ごめんね。今の力じゃ、今の私じゃ、もう届かない。でも、必ず――必ず助けるから……」【12月29日の記憶】

・「ほら、こっちの不手際で情報が漏れたりしちゃってるわけじゃない?おねえさんも一応罪悪感とかあるのよ?だから気にしてあげてねぇ会長さんのことぉ」別れ際に彼女はそういった。

・「だれ、だれ、だれってみんなみーんなうっざいくらいに聞くねぇ」トントントン、と神経質そうにソレは自身の指先でリズムを刻む。

・「どうせ覚えないくせにどうせ興味も無いくせにどうせ見もしないくせに――」言葉を発する度に憎悪が、嫉妬が、増していく。

・ありえない。ずっと一緒に居たのだ。初めて召喚した時から、どんな時も一緒だった。こちら側に居る時はいつだって存在を認識していた。

・なのに、それなのに。今はそのつながりすら感じられない。満ちていた力が唐突に断ち斬られた様な感覚。

・聖フィアナの背後組織がカルト教団。そして聖フィアナの特権者の力は魔法使いと伝承付与。今まで気にしていなかったが、これは偶然なのだろうか。

・「自分が望むもの、もしくは自分の本質を召喚する」と言われてきた。特に気にしていなかったし、力が似るのも校風に影響されるのだろうと思っていた。

・確かに系統は2分化されていたが、使い方は人それぞれだった。それに能力は確かに本質や望みを表しているように感じた。

・だからこそ気にしなかった。特権者になった理由も、その特権である理由も。何一つ意識していなかった。

・「キミらにはどうせいっしょー分からないさ。だってキミらは選ばれたサイド。ボクとは雲泥の差だもんねぇ〜」クスクスとソレは嗤う。

・「凄い美人だよねぇあの人……」ふと一般生徒の会話が聴こえた。「あ、あの人と言えばさ、知ってる?あの噂」

・「OGの人から聞いたんだけど、あの人ずっと前からいるらしいよ。しかも美人のままで」 一瞬の沈黙の後、忍び笑いが聴こえる。「ずっと前っていつからよぉ。曖昧な噂だな〜」



【イリアシ】
●見慣れた画面に視線を落として首を傾げる。いつもと変わらない画面のはずなのに何か違う気もする。先ほどの特権を使った感覚もそうだった。

●「会長を見なかったか?朝から姿が見えないんだ」慧が気真面目な口調で訊いてくる。とはいえ同室でもなければ同クラスでもない会長の行方など知る筈がない。

●誰から聞いたのそんな話、と訊くと一般生徒は知らないのかとばかりに言った。「隣のクラスの――さ!あいつが噂の――やつなんだよ!」

●そこはとても暗く、優しく包み込む羊水の様に温い場所だった。柔らかい布に沈み込むように落ちる感覚。このままいけばきっと穏やかな眠りが待っていると直感出来た。

●このまま眠ればきっと何も苦しまない。全てを忘れて、全てを手放して、ただ穏やかな眠りに身をゆだねる。それはきっと幸福だろう。

●眼前の――は嗤う。その笑みを見たくなかった。目の前の――を見たくなかった。目を離したいのに離せない。

●足も動かない。呼吸すら自由に出来ない気がする。目の前の、最も見たくない光景を前に、目蓋すら凍った様に動かない。

●平和。そう。異常なくらいの平和だ。あれを境にパタリと無くなってしまった。まさか本当にあれが全ての親玉だったとでもいうのだろうか。

●周りを見回せば同じようにスマホの画面を見つめている人間が何人か。どうやら違和感を察したのは自分だけではないようだ。



【可楽】
●意識が完全に闇に呑みこまれる前、確かにその声は聞こえた「はぶ あ ないすどりーむ。長い長い眠りをプレゼント〜」

●「帰れない?」一般生徒の話を聞いて驚きの声をもらす。冬休みは年末年始があるからほぼ全員が帰省する。なのに「帰れない」とはどういうことだろう。

●「夢世界、自分の望むものや本質が表れる世界――」なぜ表れる能力、召喚物はそういった類なのだろうか。そもそも特権者と一般人に一体何の違いがあるというのだろう。

・誰かに呼ばれた様な気がした。名前を音声で呼ばれたわけではない。だが、確かに“呼ばれた”のだ。

・「気のせいだろう」話を聞いた慧は呆れた様な表情でそう答えた。「この学校に子ども、まして少女などいるわけがない」正論だ。だが、あれを気のせいだと切って捨てる事は難しかった。

・「夢の中で、ね……」繰り返し、そして思考する。今の話の、余計な部分を切り捨てれば、そこにあるのは良く知る世界だ。

・「選ばれた者」と言えば聞こえはいい。夢世界という極限状態で己の中に眠る力が目覚めた「覚醒者」。だが、そうだとしたら逆に目覚め過ぎではないだろうか。

・「ごめんなさいねぇ。なんだか線路で異常が合ったみたいなのよぉ」巴絵は気だるげなしぐさで頬に手を当て、ため息をつく。「異常?」首をかしげて見せると、巴絵は再度口を開いた。

・どうなっている?話に聞いていたものと目の前の光景に広がるそれは全くのあべこべだ。現れたそれは、レテではなく、こちらに向けられていたのだから。

・「あぁ……確かに頼みましたけど……いやに早くないですか?」戸惑いを含んだ迅会長の声が聞こえて来た。どうも生徒会室に来客らしい。敬語という事は大人なのだろうか。

・疑いたくない、疑わしいという事を論じる以前の問題だ。始まりも、違和感の渦中にも、必ずあの人達が関わってきた。なら、何かを知っている事自体は間違いないのだから。

・返事がない。いつもならば呼べばすぐに返事があるのに、今は「繋がっている」気配すらない。まさか電波障害というわけでもないだろう。どうしたのだろう。【12月30日の記憶】



【馬鹿】
●『……君たちは知らなくても良い事さ。知らずにすむために、ボク達がいるのだから――』どこか遠い目で、寂しそうな、だがそこからうかがえる強い意志。椿会長の瞳にはそんな複雑な感情が出ていた。

●背筋に悪寒がはしり、鋭く振り向くが誰もいない。あるのは身を隠す場所も無い一本の長い通りだけ。オレンジ色にそまった路地の影はどことなくほの暗さを感じさせた。【12月25日の記憶】

●昇降口がいやに騒がしい。「おい聞いたか?!大ニュースだぞ!」一般生徒の興奮した叫びに首を傾げる。大ニュースとは一体何なのだろう。

●信じられなかった。これほどの規模で、一斉に――――するとは。昨日のあれはそれほどまでに溜めこんでいたという事だろうか。

●「……?」反応が無い。今までなら無言なら無言なりの反応というものがあった。だが全くない。繋がっていないのか?

●「君はどうして戦ってたんだ?」特権者の問いに思考する。戦う理由。自分が特権者としてレテと戦う事を選んだ理由――。【12月28日の記憶】

●「でもさ、もし、私たちが聞かされてる話が違ったらさ――」相手はそこで言葉を切る。言いたくないのだろう。それはある意味裏切りにも近い言葉だからだ。

・戦う理由は人それぞれだ。目的のため、快楽のため、退屈しのぎのため。そんなのは問う必要がない。問うとすれば原因だろう。

・たまたま?奇遇。偶然。運命。怪我の功名。何と言い変えてもおかしく感じる。これを偶然とでもいうのか?作為的な必然しか感じられないこの一連を、偶然と?

・一言、一言だ。あんなに無茶苦茶な言葉で、あんなに適当な仕草で。たった一言で幕は堕ちた。誰か嘘だと言って欲しい。夢だと、本物の夢だと言って欲しい。

・つまりは、これで、ゲームオーバー。コンティニューもリトライもありはしない。

・それは微かな違和感だった。「覚えていない事」「覚えている事」。何故こんなにも全員に偏りがあるのだろう。後遺症だとでもいうのだろうか?


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タナカ・開封記憶

一般人の記憶3つ解禁
【文梅】
●どうして。何度も呼んでるのに一向に返事が無い。こんなのおかしい。今まで呼べばすぐに返事があったのに。相次ぐ異常な事態に激しい動揺が胸を締め付けるのがわかった。

●教室の前で手を振るそれを見た文梅は他と同じように笑って声をかけようとして、だが心の中でそれを否定する自分がいて、結局おかしな表情になってしまう。

●「噂?」一般生徒の言葉に首を傾げる。都市伝説なら既に1つある。だがそれとはもう古く、今は違う噂があるという。しかも――。

●もしも、と文梅は思う。もしこれが正しかったら、とんでもないことに自分たちは巻き込まれてるのではないか、と。

【アンドリュー】
●その日もいつもと変わらない。奇妙なこの世界を歩き、現れるレテを倒すだけの日々。違うのは同行する仲間達とする会話の内容だ。だがそれも当然だ。特権者なら誰でも――。

●手を差し伸べようと腕を動かした瞬間、『触れちゃ駄目だ!』脳裏に響く椿会長の絶叫で思わず全身が震えて動きが止まった。穏やかな彼女からは想像もつかない、恐ろしい声だった。


【はやて】
●静かな世界を歩きながら聞いた事を思い出す。この世界は本来の在り方とは違うのだと。そして在り方を変えたのは――だという、その話を。

●おかしい。食われても自分がどうにかならない限りは食われた人がいる、という記憶は残る筈だ。なら、その記憶が無い今は、単なるこちらの勘違いではないだろうか。

【枢】
●「さぁ、どうだろうな」こちらの問いに迅会長は苦笑を返しただけだった。これ以上語らないという合図でもあり、隠しごとがあるというサインでもあった。

●「人と人を繋いでいるのは記憶――。それがなければ、ほら、そこに誰かがいたなんて思い出さないでしょ?」不確かで、おぼろげで、夢と大して違わない。それはそう言って笑った。

●今まで意識しなかった事。ただ巻き込まれ、真剣だったかはともかくそれなりにその世界に足を踏み入れ活動してきただけで、考えもしなかった。【12月28日の記憶】

●「――馬鹿馬鹿しい。あの人が――なんて」慧は嘲笑の響きすら混ぜて否定した。だがもし真実ならば彼すらしらない事があるという事ではないだろうか。

【さなえ】
●届かない。伸ばした手は何もつかめずに空をきる。消えてしまう、また、目の前で、奪われてしまう。

【真姫】
・開きかけ、何も音を発さぬまま口を閉じる。そうだ。ありえない。だってここには誰もいない。もう誰もいない。だから、頭をよぎったそれは勘違いなのだ。【12月27日の記憶】

【天寧】
・『まさか、そんな――ありえねぇ』迅の戸惑い交じりの声が脳に届いた。声が届いている事も気づいていないのか、呆然とした迅の声が続く。『あれは起動しなかった。なのに、どうして――っ?!』

・おかしい。本来なら、今自分たちが得ている情報が全てならば、おかしいのは自分の方だ。だが、覚えている。証明するものがなくとも、確かに――。

・クスクスクス、と笑い声が聴こえた気がした。無垢な様な、邪悪な様な、清濁併せ持つ少女の笑い声が、どこかから。

・随分と静かだと思った。昨日の騒動も酷かったが、今日も今日とて異常だ。かなり長い間歩いているというのに、一度もレテに遭わない。【12月27日の記憶】




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トルテ・開封記憶

【譲葉】
●「え……?」思わず言葉を失った。一般生徒のこの言葉はおかしい。だって、今彼女は確かに言ったのだ。戸惑う様子も無く、はっきりと。

●どうにもこの異常は女子校だけではないようだ。他校の特権者から話を聞いて譲葉は考える。だが、何故この異常を特権者全員に周知しないのだろう。

【凜太郎】
●人は失ってから初めて気づくものだ。こんなにおぼろげなものを、何故絶対だと思ったのだろうか。凜太郎は砕け散るそれを呆然と見ることしか出来なかった。

●夢世界にいるのは特権者か堕ちた一般生徒のみ。なら、今見た影は何だったのだろう。あれは明らかに――。

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ひじここ・開封記憶

【弥緒】
記憶の欠片の1つが「日時の開封」に使われています。

●こんな場所知らない。何故自分はこんな所にいるのか。先程同じ学校らしき生徒が言っていた「噂どおりだ」という言葉は何なのか。

●ごぼり、と通路の先で水音がした。先へ進もうとして、その足が止まる。理性ではそれを知りたいと思っていても、本能がそれを拒絶していた。

●振り返った先で折れ曲がった角を注視する。足音と笑い声が聞こえた気がしたのだ。だが、振り返ってみればそこには誰もいない。気のせいだったのだろうか……。【12月25日の記憶】

●「誰かいるのか?!」やや厳しめの声に驚いて物音を立てそうになるのをなんとか堪える。口に手を当てつつ声のした方をちらりと見ると、そこには――。

●「なぁなぁあの話、お前ら聞いたか?」それなりに人通りのある通りで、何故かその言葉だけが鮮明に聞こえた。何気なく耳を傾けると、男子生徒は楽しそうに話を切り出した。

●【12月31日23時:記憶データが存在しません】

●心地良い布団に埋もれる様に沈み込む意識の中思う。ここで終わって良いのだろうかと。終わる?自分の脳裏に浮かんだ言葉に違和感が生まれる。終わりも何もここは――。

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花咲璃優・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【優佳】
●「ね、知ってる?ほら、この間言ってたとこ。マスコミがうろついてたらしいよ」一般生徒がひそひそと話す声が聞こえる。クラス内はもちろん、今日はどこもこの話題でもちきりだ。

●目の前のレテを薙ぎ倒す。二人生き残るためにはその方法しか残されてない。優佳は戦闘態勢を整え直して後ろの生徒を見た。

【雪斗】
●「な、なんだよこれ!こんなの聞いてねえよ!な、なんかお前知ってんのか?!」飛び付かんばかりに掴みかかってくる一般生徒の言葉に違和感を覚えた。普段の生徒達が言わなかった言葉だ。

●今日は平和な日だと思った。レテどころか堕ちてる人もいない。昨日の一件で全て終わったのだろうか?だが、そうだとしてもまだいくつも疑問が残っている。

●「聞いてない」とはどういうことだ。聞いてないも何も、彼ら一般生徒はこの世界を知らないはずだ。何故知っているのだ。

【慧斗】
●それは笑って問いかけてきた。「君はどうして夢に来たんだい?なりたい自分になれたかい?ここは心地良いかい?君は夢に何を望むんだい?」

●暗闇に伸びる階段は不気味だった。常人なら降りるのを躊躇う深淵。だが今は状況が状況だ。慧斗は飛びこむように階段を駆け降りた。

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河崎嘘弐郎・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【衿親】
●衿親の告げた言葉を聞いた朱音会長は彼女を安心させる様に笑ってみせた。
「ん、そっか。ありがと教えてくれて。こっちでも調べてみるね」

●「今日男子校の人たちに『魔女』って言われた……」「私も――」突如さらけ出された背後組織のスキャンダルにクラス内にはどこか不安げな空気が漂っていた。

・「頑張ってねぇ衿親チャン。他の二校に負けちゃダメよぉ」おねぇさん応援してるから、と巴絵は笑う。応援も何も、センターは他の二校にだって同じ情報を流しているだろうに。【12月26日】

・彼女はいつも私達を煽る。まるで惰性で力を使う事を防ぐ様に。何かを知ろうとする思考を止める様に。

・「……?」ふと首を傾げる。今すれ違った人は誰だっただろう。どこかで見た様な気もするし、気のせいな感じもする。【12月24日】

・「ぜぇーんぶキミらが悪いんだよ?何も覚えてない、覚えようともしないキミたちがさぁ〜」ソレの台詞にはかすかな怒りが感じられた。おどけた声の中にほんの僅かに滲む、怒りが。【12月30日】

・「大丈夫!あとはあたし達がどうにかするからさ!」ニッと快活な笑みを浮かべる朱音会長。だがそこには隠しきれない疲れが見て取れた。

・「けじめはあたし達の手でつけなきゃいけない。これ以上皆を苦しめたくないし、後にも継がせたくない」それは静かな決意だった。

・随分と空気が変わるものだと思う。つい昨日までスキャンダルで不安げだったと言うのに、今はどこか高揚した雰囲気すら感じる。【12月27日】

・沈黙。起動した気配は確かにあった。だが眼前には何も無い。召喚に失敗したとでもいうのだろうか。【12月29日】

【吾聞】
●吾聞は戦闘態勢を整えて目の前のそれを見た。
「こんなものは見た事が無い。戦うべきか、逃げるべきか(彼っぽい言葉使いに変換してください」
それは完全にこちらを殺す気でいる。決断するまでの猶予はそう無さそうだ。

●「誰かいるのか?」扉の前で室内に入ろうとしない生徒を見つけて声をかけると、彼は困惑の混ざった表情で扉に視線を向けた。

・「悪いな。完全に失敗だ。もうちょっと制御できると思ったんだけどなぁ」漏れ聞こえる声は迅会長のものだ。室内に人の気配が他に無い事を考えると電話でもしてるんだろうか。【12月27日】

・「やっぱそっちもか。あぁ、あぁ。そうだな。これは封印――」そこでふと声が止まる。少し思案する様な気配の後、再度息を吸う音。

・「――いや、残しておくよ。あいつなら多分、上手く使ってくれる気がするしな」もちろん、と迅会長は笑った。この笑い声を良く知っている。「悪用されねェ様にちょっと手を加えるけどな」何かを企む笑みだ。

・「会長?」問い返すが声が聴こえない。それどころか繋がりすら感じない。いきなり、あまりに唐突に断たれてしまった。【12月30日】

・ありえないと心が囁く。だが本能はそうだと告げている。どこかで見たのだ。あの癖を、あの嗤いを、どこかで見たのだ!

・「なぁなぁゆめじ様の話聞いた?」どこもかしこもこの噂だ。さすがに聞き飽きた。だが次の一言がその倦怠感を吹き飛ばした。【12月27日】

・「こいつさ、ゆめじ様に会ったんだって!」男子生徒に指差されているのは一般生徒。記憶に間違いがなければ特権者でも無かった――「いや……」【12月27日】

・いや、違う。特権者ではないが、この一般生徒は夢世界に触れているはずだ。被害者、堕ちた人間として。なら、彼は記憶を保持していると言うのか?【12月27日】

【鈴奈】
●鈴奈は走りながらせわしなく周囲を見回していた。だが行けども行けども姿を見つけられない。あんなに派手な姿を見失うはずが無いのだが。【12月25日の記憶】

●地面が溶解した様にどろりと黒い沼に変わり、身体を呑みこんでいく。見れば、仲間たちも同じように黒い沼に取り込まれて沈み込んでいた。

・りん、と鈴の名が聴こえた。だがこの世界に風は無い。誰かの特権か、レテの音だろうか。【12月24日】

・「女の子……? 確かに、女の子だったのね?」会長の反応は予想外だった。思い当たる節があるのか、表情を真面目なものにして、1つ1つ念を押す様に問いかけるのだ。

・「いやぁ〜感謝感激あめあられぇ〜!キミのおかげで、キミたちのおかげでやぁっと面倒事が片付くよぉ」クスクスとソレは嗤った。【12月30日】

・こんな所で、こんなにあっさり終わるのか。誰もあいつに一矢報いれないまま、この闇に溶けてしまうと言うのか。

・【わかってたの。 でも あそんで ほしかったの】

・「そういえばぁ、今日クリスマスイブだけど、何か予定あったりするのかしらぁ?」悪戯っぽく巴絵に問われどう応えたものかと考え込む。【12月24日】

・「あらぁ? いないのぉ? おねえさん学生の時は――ってちょっと気をつけてちょうだい」巴絵の声に険が混ざる。だが矛先は鈴奈ではない。巴絵に背後からぶつかった男だ。【12月24日】

・「今の人は…」「ん〜?まぁ一応研究員だけど殆ど事務ねぇ〜。見た事なかったかしら?」普段は帰省の処理など窓口業務をしているそうだ。

【光葉】
●「でもさ、私達って何も教えてもらってないよね」声から滲むのは不安と動揺。無理もないだろう。いきなり知らない裏事情をさらけ出され、しかもそれが自身らの特権に似ているとあれば尚更。

●いっそ空恐ろしくなるほど平和だ。昨日の激闘が嘘のようと言っても良い。ここまで変わるとなると、あれが全ての元凶だったのだろうか?

・【聖フィアナ情報開示・2】
その反面、明松財団は昔から魔術などに興味があるとされる。元々医療や貿易に力を入れている事もあり、魔術とは「先見性」「医療の発達」の事だと言われてきた。だが、社交パーティーの裏でサバトを開いているなど黒いうわさが絶えない所でもあった。本来キリスト教徒でも無い財団がミッション系の学校を建てたのには、ひとえに本物の魔術への憧れからである。

・「何でも願いを叶えてくれるゆめじさま」という噂だけなら夢世界の噂とさほど変わらない。だがこれがこれほどまでに熱を帯びるのには3つほど理由があるだろう。【12月27日】

・1つは今まで眠っていた――堕ちた人々が目覚めた事。その人々が以前と印象が変わった事。理由を訊くと全員が必ず「ゆめじさまのおかげ」と答えた事。【12月27日】

・「夢路町だからゆめじさま、ってのは安直で分かりやすいけど、本当にそんなのがいるのかな」特権者の呟きに周りの仲間達も黙りこむ。【12月27日】

・『今日一日は夢世界に入らないで』会長の言っている事が分からなかった。夢世界に行くな?どういうことだろう。【12月30日の記憶】

・巨大な鋼。ただ一言で表すならそうとしか言いようがない姿だった。突如顕現したそれは巨体を震わせながらも確実にこちらに近づいていた。【12月26日】

・だが元凶だとするのなら、あれの正体は何だったのだろう。幻の様に消えてしまったあれ。倒したという実感が殆ど無かった。

・声。声だ。今、声が聴こえた。闇の中で、絶望一色の海の中で、今確かに、声がした。

・【ごめん なさい。 ごめん なさい】

【イリヤ】
・「そういえば同部屋の子が昨日帰って来なかったのよー」「え、まじで?外泊?」教室の隅でひそひそと話す生徒達。まただ。昨日は随分と帰っていない生徒が多いらしい。【12月28日】

・「い、意味分かんない!聞いてないこんなの!」女子高生は錯乱状態で叫んでいる。今まで戸惑う生徒は多かったが、こんなに動揺する生徒も珍しい。【12月30日】

・「ね、ねぇ!あんたここがどこか知ってるの?!こ、ここが、ゆめじさまのいるとこなの?!だったらなんであんな化け物がいるのよぉ!」飛びかかるように掴みかかられ、思わず言葉を失う。【12月30日】

・『さよならさよならまたねは無いよ永遠にね〜!』クスクスクスと嗤いながら、まるで友達に手を振る様に気軽にソレはヒラヒラと手を振った。【12月30日】

・『強、制、退、避ぃぃぃっ!』会長の声が響いたと同時、世界が一変した。「ここは……」現実の世界。出された。引きずり出された。【12月29日】

【伏見原花鳥】
・忘れている事が多い。多過ぎる。記憶に物凄く自身があるわけではない。だが、こんなにも違和感や既視感が頻発するものだろうか。もう一年も暮らしてる部屋で、同室の人間の数を間違えたりするだろうか。【12月29日】

・「また……?」思わず声が漏れる。またレテの群れだ。今までこんなに異常発生した事など無かったのに。【12月29日】

・「私達のアレセイアって聖フィアナのだよね。母体がカルト教団だから力もそういうのなのかな? あれ、でも……」特権者の声が止まる。そう。それだと話がおかしい。【12月25日】

・アレセイアは特権者本人の本質か望むものだったはず。なのに、何故その力に組織が関係するのか。【12月25日】 

・『そんなの――そんなのは、正義なんかじゃない!ただの狂人だ!』ほんの一瞬だけ、会長の絶叫が聴こえた。ノイズ混じりの声。ビリビリと、痛いくらいに脳裏に響いた。【12月30日】


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かぐー・開封記憶

【みか】
●「なぁ知ってるか?――の噂!」一般生徒の聞きなれない単語に首を傾げる。そんなものは今まで聞いた事が無い。

●「君はどうして夢に来たんだい?なりたい自分になれたかい?ここは心地良いかい?君は夢に何を望むんだい?」それは立てつづけに訊いてくる。夢はかなったのか、と。

●現実はあんなに浮足立ってるのに、夢世界はいやに静かだと思う。いや違う。静かすぎるのだ。いつもするはずの気配すら消えている。一体どういう事なのだろう。

●返答が来ない。いつもならこちらが何も言わなくても危険や異常があれば伝えてくるはずなのに。そういえば少し前からおかしかったような気もする。

●「俺らって何も知らないままだったよな」特権者の言葉に沈黙で同意を示す。確かにその通りだ。自分たちの事なのに、結局何も分からないままだった。

●だが知らない事なんていくらでもある。車の原理を全て理解していなくても運転できるし、病気や現象など存在を確認されながら原理が分からないなんてよくあることだ。

●全ては終わったのだからもう考えなくてもいいだろう。周りに漂う雰囲気も次第に同じ結論に行きつき落ち着きを取り戻す。そう。全ては終わったのだ。

●校内に充満する噂。噂、ウワサ。最近そればかりだ。元々都市伝説がずっと続いていたあたり決してそういうのが嫌いというわけではないだろうが、少々異常じゃないだろうか。

・コレと話していると、ずぶり、ずぶりと見えない沼に堕ちていく様な感覚に囚われる。「現実は楽しいかい?楽しくないならどうして現実を「現実だ」と言っているんだい?」

・だが終わった話だ。全てもう終わった話。この世界に既にレテはおらず、懸念されていた事も解消された。いわゆるハッピーエンドというやつだ。

・「君たちはそれに納得しているんですか?」男はそう訊いてきた。このまま終わって良いのかと。このまま目を閉じ、耳をふさいでいいのかと。

・「つまりそれがずっと語られてたって事は、あながち嘘でもないんじゃないか?オカルトチックな話だけどさ」一般生徒の言葉に曖昧に濁すことしか出来なかった。確かに嘘ではない。

・だが、そんな話は聞いた事も無い。だってあの世界はそんなにいいものではない。レテがいて、廃墟が広がって、どこまでも希望なんて湧いてこない世界だ。



【ここ】
●当たり前だと思ってたものも、無くしてしまえば一瞬だ。手段が無いというのはこれほどに追いつめられるのもなのかと、ここは己の身で実感する。

●「あーあーだから言ったじゃない。堕ちない様に気をつけてってさ……」それの声が徐々に遠くなる。後に残されたのは暗い空間だけだった。

●『……ありえない。いや、でも、これは――どうして……?』戸惑いに揺れる朱音会長の声が聞こえる。その様子からも眼前の光景が明らかにおかしいのだと分かった。

●「どうしてこの力が、自分にあるか……」周りが次々と視線を落とす中、ここも自らの手を見つめる。何故自分なのだろう。何故、自分たちだけなのだろう。

・「あれ……?」辺りを見回す。崩壊した町、人気のない世界、変わる事のない永遠の黄昏。間違いない。ここは夢世界だ。

・あぁ、またあの視線だ。悪意と好奇の混じった視線。他校の生徒から向けられるその視線。それもあの知名度がまるでない雑誌のせいだ。【12月25日の記憶】



【さゆめ】
●「夢に堕ちる」都市伝説はさほど悪意が無い――ありきたりの噂に過ぎない。内容が真実であるかはともかく、音楽室の絵が動くとかピアノが勝手に鳴るとかそういう程度の話だった。

●だが最近の噂はおかしい。あきらかに何か裏に意図があり、それを引き出すために広めている。そんな作為的で悪意すら感じてしまう。

・「でもさ、それっておかしくない?」特権者の一人が厳しい表情で言った。「何で会長だけ学校から出れないの?何で、複数の特権が使えるの?何で、どうして――」

・不思議な光景だと思った。そのために戦ってきた。いつかこういう時が来るのだとも思っていた気がする。だが、実際本当にこの目で見る事になるとは思わなかった。

・全てのベッドが空っぽになった、とても広く感じるこの部屋の中を。静寂は今までと変わらない。だが、明らかに変わったその光景を。

・「会長を、椿会長を見ておらぬか?!」掴みかからんばかりの勢いで弓弦は聞いてきた。見ていないも何も、彼女の居る場所など決まってるはずじゃないだろうか。【12月30日】



【りつ】
・「夢世界って夢路町限定なんだよね。地元に住んでる人間が特権者になるなら分かるけど、基本的に特権者って外から来た人間だよね」特権者の言葉に同意する。確かに、夢路町は9割以上外から来た人間だ。

・すなわち、特権者の力は血で受け継がれるものではない。人類の発祥の地がここだったというならともかく、親族で特権者がいたとしてもそれは偶然なのだろう。



【学校情報開示】
【聖フィアナ女学院中学校・高等学校】私立のミッション系女子校。明松財団は貿易、医療など多角経営で莫大な財を築いた明松滋郎により、「社会を変革する可能性と才能を育てる教育環境」という理由で30年前に設立された。設立以降IT産業にも進出し、門外不出の技術で開発されたというスマートフォンやPCは根強い人気を誇っている。


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シルフ・開封記憶

【勅使河原】
●「やぁ。すいませんが生徒会室がどちらにあるかわかりますか?」昇降口で声をかけてきた男は、「入校許可証」と書かれたタグを胸から下げていた。見ない顔だが、社章は知っていた。

●確か、メイヤール。そう、この学校の背後組織のメイヤールグループだ。だがいくらここに資金やら技術やらを提供しているとはいえ、生徒会長に何の用だろうか。

●「お前は不思議に思った事は無いか?」言われて考え込む。何故、といわれても案外分からないものだ。いつの間にか持っていて、いつの間にか使っていた力なのだから。

●「なぁなぁ知ってるか?女子校の話!」またこれだ。今日はどこもこの話で持ちきり。しょうがないのかもしれない。何せ帰省を待つのみとなった学生達で溢れる夢路町に大した娯楽は今無いのだから。

●そして冬休みに広がる噂はこれだけではなかった。その熱が冷めないうちにもう一つの噂が異常なほど早く広がったのだ。

●周りに広がるのは泥。いや、泥とも言えない。闇だ。全てを呑みこみ、消してしまう闇が意志を持つようにうねってこの身体を呑みこんだ。

・扉。真っ黒な扉だ。そこだけ空間を切り取った様に、漆黒の扉はただそこに存在していた。だがおかしなことに、周りの誰もその異常に気付いている者がいない。【12月24日の記憶】

・「貴方ももう限界でしょう。誰か代わりを立てれば済む話だというのに」扉の向こうから聞こえてくる声。どこか憐れみと微かな嘲りを含んだその声に、返ってきた声は単調だった。

・言われて考えてみればおかしな話だ。何の変哲もない、何の特別な訓練も受けていない、何も共通点が無い学生達の中で、何故一部だけ特権者になるのだろうか。

・スマホを使って起動する謎の力。魔法も呪術も信じられていない科学の時代に、技術の塊と言っていいスマホから起動する、魔法。


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唯代終・開封記憶

新規獲得記憶の2つを旧記憶の見えなかった部分の開示に使っています。
【シーモア】
●「なぁ、お前は見たことあんのか?ゆめじさまの事!」一般生徒の問いに答えを返せるはずがない。彼が本気で聞いているのか、単なるうわさだと思って聞いているのか、それすら判別付かなかった。

●扉を開けてからシーモアは「あぁここは空室だったか」と認識する。一年も暮らしていて、完全な空室を忘れたりするだろうかと考えながら。

●【12月31日24時:記憶データが存在しません】

●「よりにもよってこんな時に――っ!」焦りを含んだ特権者の声が聞こえる。無理も無い。ここ数年見た事も無い大物相手にハンデつきで戦うはめになっているのだから。【12月26日の記憶】

●「アッハハハハハ醜いよねみっともないよね君もそう思うだろう?」あんな姿のやつはうちの学校にもいる。だが、隠しきれないおぞましさと気配が目の前のそれが決定的に違うものなのだと知らせる。

●「君たちは全て別の意味で“人間らしい”! 欲望の為に、願いの為に、望みの為に自らを、他者を、世界を壊す事を厭わない! だぁいすきな人間そのものさ!」嗤う、嗤う。

●「なぁ、―――って、覚えてるか?」彼の問いの意味が分からなかった。―――?一体それがなんだというのだろう。

●起動出来る。どうやら対抗手段は残されていたらしい。だが安心している暇も無い。何せ異常も異常、前代未聞の危機と言っていい状態だ。

●「え、―――が?そう、それは心配ねぇ」巴絵が不安そうに頬に手を当てる。心配?一体何を心配するのだろうか。

●「実はね、あそこの神社は、昔ここにあった集落の名残らしい……」語られた内容は初耳だった。もしそれが本当ならば、何故隠すのだろう。後ろめたい理由が無いなら特に隠す必要も無い気がするが。

●「清楚なお嬢様かと思いきや魔女の巣窟かぁ」クラスメイトの下卑た笑い声がする。悪意、隠しきれない悪意が室内中に渦巻いている気すらしてきた。

●確かに。そもそも何故3つの学校がここに建ったのだろうか。聖フィアナが魔術めいたものを求めて建てたというなら、この学校は――?

・「ぼくはねぇ〜人間の可能性が大好きだよぉ。それを叶えてくれる此処も大好きなんだぁ。だからねぇ〜」ぐりん、と顔がこちらを向いた。

・「邪魔する子には退場願いたいんだぁ」それは突然起こった。まるでスイッチを切りかえた様に突如周囲の景色が消失する。

・どうにも最近こういう事が多い。誰かがノートを見せて欲しいと言っていた様な気がしても、それが誰だか分からなかったり、クラスの人数を間違えたり。

・急に賑やかになった。これが本来の、このクラスの在るべき姿なのだろう。だが、馴染む感じがしないのは、彼らがどこか異質に感じられるせいかもしれない。

・「そうか……やっぱりそこまでは難しい、か」少しだけ落胆した様な声だった。明るさが取りえの様な会長には珍しいと思いつつ、歩みを再開しようとしたその矢先だった。

・静寂。確かに今アレセイアを押した。なのに目の前には何も起こっていない。起動に失敗?今までそんな事一度だってあったことはないのに。

・「覚えてねぇならいいんだ。悪いな」二カッと笑って、行っていいぞ、と会長は言った。言われたとおりに退出しながら考える。「――」?そんな名前、今まで一度だって聞いた事ない。

・「夜寝る前に、ゆめじさまにお願い事する。そうするといつかゆめじさまが招いてくれるんだ」どこにでもあると言われればあるような都市伝説。夢世界の噂と一緒だ。

・と、そこでふと思考が止まった。「招いてくれる」と彼は言った。招く、とは何処に?ここで現実以外で、招かれる場所など1つしかないのではないか?

・澱んだ空気は別に聖フィアナの噂だけの話ではない。突然の帰省ストップ。理由すら分からない、ある意味隔離された様な状態にどこか苛立ちの様なものを感じているのだろう。

・夢路町に1つだけある駅は普段は利用されていない。長期休みの場合、または特別な事情ありと認められた者の帰省、もしくは学校説明会などによる外部の受け入れ。

・そういった理由がないと、あの駅に電車は止まらない。殆どの場合通過していくだけだ。だが、一応駅の前を通っているのだから止めて乗る事くらいで来そうだが。

・機械。銃剣などの武器、ハッキングのような力。母体が軍需産業にも手を広げているだけあって、そういった力が集中している。それは本当に夢世界だけに留まるのだろか。
【壱留】
●おかしい。今自分は確かに願ったはずだ。まさか不調とでもいうのだろうか。自分は一般生徒ではなく、特権者のはずなのに。

●「触れなくて良い事もある。ボクは、ボク達は、君たちがそれを知らずに済む事が一番なんだから」だからこれ以上触れようとしないで、と彼女は言った。

●隠している事は隠さず、内容は明かさず、ただ立ち入るなという。その表情は心苦しげであり、決して明かさぬと固い意志に満ちていた。

●見た事も無い雑誌だった。こんな雑誌があったのかとすら思うほど知名度のなさそうな雑誌。だがそこに書かれているのは紛れもなくよく知る学校の名前だ。

●『――きて! 早く! そのままじゃ危ない!』悲鳴じみた声で意識が戻る。目蓋を開くと泥の様なそれがまさしく襲いかかろうと身を震わせている所だった。

・なんて巨大、なんて堅固。全てを拒み、全てを壊さんとする圧迫感。今まで見た事のないソレは産声のように雄たけびをあげた。

・「それではさよなら、サヨナラ、さようなら〜」ケラケラと、ケタケタと、笑う、嗤う。声はどんどん遠ざかっていって、やがてその先に在るのは――ただの。

・あぁ、失われていく。奪われていく。いや、そもそも自分のものですらなかったのかもしれない。だが、己の中にあったはずの何かが静かに虚無に溶けていく。

・あぁ、こんなところで。こんなにあっさり。こんなに惨めに。全てが消えてしまおうとしている。コンテニューボタンなんてない。

・非現実な世界でありながら、そんなところだけはリアル。脳裏に浮かぶのは、一言。ゲームオーバー。これで終わり。己という存在は闇に沈む。

・反射的に身を動かす。――危なかった。後少し、後少し遅かったらレテにやられていた。目の前をかすめた死の気配に、ぞくりと背中に震えがはしる。

・気味が悪い、と感じる。この町は元々閉鎖的だ。特殊な町、特殊な環境、特殊な学校。噂は常に巡っている。だが、これは異常だ。何者かの悪意すら感じるような広まりようと傾倒する生徒達。

・どうにもおかしい。先ほど自分は夢世界の事など少しも意識していなかった。記憶が確かなら、自分は意図せずにあちらへ行った事になる。

・スマホに視線を落とす。画面上に浮かぶ「アレセイア」の文字。気付いた時には入っていたそのアプリ。ずっと使ってきたそれを見つめながら思考する。

・自分の本質、願いを表すそれ。レテを倒す唯一の手段。一体何故自分がそれを使えるのだろうか。特権者には何か共通点があるのだろうか。

【望弥】
●「ね、――の事知らない?」寮に入ってくるなりそう叫んだ一般生徒の言葉に何となく意識が向く。失踪?でもこの町で失踪なんてあり得るだろうか。
●現実的な面で考えるなら帰省や行方不明。だがこの町でそれほどの事件が起こるとは考えにくく、帰省も今は不可能な状態だ。とすると――。

●とすると夢世界に堕ちた可能性だが、会長から連絡は来ていない。食われたならば抜けがらになってしまった身体が見つかるはずで、そうなると夢世界の線も違う事になる。

●随分と混んでいる。決して生徒数は少なくないが、朝から入れないほど昇降口が混んでいるなんて聞いた事が無い。【12月27日の記憶】

・どうかしたの、と近くの生徒に訪ねると一般生徒は興奮と当惑の混ざった不思議な表情で口を開いた。「ほら、夏に感染症か何かで倒れた子いたじゃない。隣のクラスの――」

・「望弥さん、会長を見ませんでしたか? どこにも見当たりませんの……」頬に手を当て、急いていてもどこか優雅さを感じさせる立ち姿で紅羽が訪ねてきた。

・来ない。いつも共にいた。頼りにしていた存在が。まるで初めからそんなものはいなかったとでもいうように、気配すら感じられない。

・大丈夫か、と問うと「問題ない」と応え。気のせいだろうかと一瞬考え、気のせいだったのだろうと断定する。ずっと戦ってきたのだ。これまでも、これからも。

・黒、黒、黒。いや、これは黒ですらない。無だ。虚無。どこまでも広がる無だけが広がる世界。この世界ではむしろ自我を未だ保っている自分の方が異分子だと、そう告げられている様な世界。

・「誰なの」初歩的な問いだ。だが、それ以外に目の前のそれにかける言葉が見つからなかった。「誰?ダレ?さてさてだれでしょー!?」ケラケラケラとそれは嗤う。嘲るように、憐れむように。

・ふと我に返って辺りを見回す。先ほどまで商業区を歩いていたはずだ。なのに、と空を見上げる。携帯の時計は朝の10時。なのに空は、気味が悪いほどオレンジ色をしていた。

・あぁまたこの噂だ。学校の事から話題がそれたのはありがたいが、こちらへの熱狂ぶりは少々おかしい。言ってしまえばたかだか噂なのに、ここまで盛り上がるものだろうか?

・いや、今回に限って言えば発信源が原因なのだろう。普通の、それこそ望弥が広めたとしても笑い話にしかならない。だが、今回は違う。

・レテに食われ眠ったはずの、一般生徒から見ればずっと入院、意識不明だった生徒達が一様に同じ噂を口にするのだから。

【代佳奈】
・どうにも教室の、というより学校全体、街全体の空気が悪い気がする。何かがおかしくなり始めている様な、そんな感じが。

・「はぁい」気だるげな色気を含んだ声とともに現れた白衣の女性に少し驚く。確か――。「いつも受付に居る男の人、今日はいないんですね」

・「大ニュース大ニュース!」駆けこんできた生徒に一斉に視線が集まる。「校門見てみなよ!ずっと休んでたっていう――」

・なんだ。「え、嘘――」なんなのだ。「ここって……」さっきまでベッドの上にいたはずだ。なのに、ここはどこだ。慌てて窓に駆け寄って外を見上げる。

・月は無く、ペンキでべたべたと塗ったような黄昏色の空。小奇麗な町並みは生の気配さえ感じられない廃墟群へ変貌していた。




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いを・開封記憶

【夜天光水緒】
●何かが聴こえた。何かとしか言いようがない。それは声の様であったが、鼓膜を震わせはしない。一番近い表現で言うのなら震えたのは脳だろう。空間が鳴いている。そんな感じだった。

●「あまり勧められないんだけど……状況が状況だ。いけると判断した所までで良い」会長の言葉を聞いて思案する。正直安全である保証はほぼ無いと言っていいだろう。

●「なぁなぁ見たか?ほら、噂の雑誌!」雑誌名を聞いたが覚えが無い。そもそもこの夢路町にそんな雑誌置かれていただろうか。

●「お前ちょっと上の――あ、いや、あそこは空室だった……か?」悪いなと去っていく寮生を見送ることしか水緒には出来なかった。

●これで終わったのだろうか。先ほどまでの喧騒がうその様に静まり返り、残ったのは特権者達だけだ。荒かった息が落ち着くと共に、ようやく決着がついたのだという実感がわいてきた。

【五百機藍子】
●正直言って異常だ。いくらなんでも度が過ぎている。一体何でこんなにも――いや、それ以前に一体どこから、を追求した方が良いだろうか。

●「――?」今聞いた言葉が信じられなかった。そんなものは今まで一度も聞いた事が無い。一度もだ。聞き間違いでない事は、自分が今ここにいる事が何よりの証明になるだろう。

●全て終わったのならそれはきっと良い事なのだろう。歩けど歩けど出あわないことが何よりの証拠だ。

●くすくすと嗤い声が聞こえる。酷く耳障りな声。顔を見てやりたいのに瞼が重くて開かない。嗤い声が鬱陶しいのに、訪れる眠りはあまりにも穏やかで――。


【北落師門うい】
●「はは……ははははは!やっぱ噂は本当だったんだんじゃねぇか!」まるで狂ったように笑う男子生徒。彼は唖然と見つめるこちらに気づいたかと思うと興奮しきった様子で近づいてきた。

●「堕ちた人発見しました。え?あぁ、傷とかも無さそうですけど、何でですか?」助けてくれた人は虚空に向かって話している。どうやら会話先の人間はういの安否を気にしていたようだ。


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未音・開封記憶

【光瑠】
●目の前のそれに手を伸ばす。後少し、後少しなのだ。だがそれも叶わず手は虚空をかく。あぁ、これは――。

●夢世界は多少の違いはあれど基本的に現実と同じだ。だが、目の前のそれを光瑠は現実で見た事がなかった。

●「ねぇねぇ達磨さん知ってる?! ほら、ずっと――だった――さん!」満面の笑みで机に手をつく一般生徒の言葉に光瑠は目を見開いた。

●灯りのない地下室の中で仄かに光を放つもの。召喚や特権行使の際に現れる光に似ていたが、それはありえない。ありえないはずなのだ。

●『立て続けで悪いのだけど次は商業区にレテの群れが出た』向かってくれ、という椿会長の声はどこか苦しそうだった。【12月29日の記憶】

●【12月31日20時:記憶データが存在しません】

●出した結論は拒否だ。ここで終わるわけにはいかない。出なければ、ここから出て現実に帰らなければ。

・また、奪われた。目の前で。何も出来ずに。彼女はどこかへ消えてしまった。

・いや、待て。消えた?消えたのは誰だっただろうか。女子高生。制服が同じだった様な気がする。いや、そもそも目の前に本当に誰かいたのだろうか。

・本。少なくとも光瑠の目には本に見えた。日記帳の様な装丁。闇の中、淡い光の中に積み上げられたそれはある種幻想的な姿だった。

・『――ね』声が聴こえた。『ごめんね。ボクはまた君達を救えない。ボクはまだ――』その声は聴きなれたものだった。いつも飄々として、掴みどころのない、あの人の――。

・それは無だった。絶対的な無だ。拒否する事も許されない問答無用の強制終了。自分という存在を内側から壊される様な衝動。

・信じられない、という思いがあった。こういった光景は何度か見てきた。だが、これほど大規模なものは初めてだ。

・全員。おそらくあの部屋に――堕ちた人間を寝かせておく部屋にいた全員だ。全員が起きてそこにいた。


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水島新・開封記憶

記憶の欠片1つを日時開封に消費しています

【松葉】
●「あら、帰省の申請かしら?ちょっと待ってねぇ、今バタバタしてて」巴絵は苦笑してこちらに背を向け走っていく。何かあったのだろうか、と仮説を立てるより前に一般生徒の会話が耳に入った。

●松葉の言葉を聞いたそれは嗤った。嘲るように、見下す様に、愛おしむように。顔は見えないが確かに嗤っていると確信できた。

●素早く振り向くがそこには誰もいない。変わらない夢世界の光景が広がっているだけ。

●「でも夢世界って何なんだろうね。よく考えなくても特権とか召喚とか普通ありえないし」同じ特権者の言葉に同意を示す。確かにおかしな話だ。

●夢路町でしか使えず、夢路町にしか存在せず、一部の人間にしか認識されない世界。一体何のためにそんな世界があるというのだろう。

・「だーれっかなーだーれっかな〜。ぼーくはいったいだーれっかな〜?」クスクスクス。クスクスクス。生理的な嫌悪感を、恐怖を抱かずにはいられないそれ。

・「聖フィアナがカルト教団ってことは、うちは軍人養成所かな」本気で言ったわけでもないだろうが、一般生徒の言葉には不思議と納得がいく。

・聖フィアナの背後にいるのがカルト教団。そうだと考えるなら、彼女達の能力が魔法や召喚獣などの力ばかりなのにも頷けるのだ。

・会長達の話を信じるならば、アレセイアを作ったのは夢路管理センター。それを改造したのが各学校だという。

・ふ、と目の前が真っ暗になった。同時に身体が安定感を失い、どこまでも堕ちていく様な感覚に襲われる。

・「げーむおーばー。しょうがないよね〜。ルール破りは連帯責任〜ってねぇ〜」声が降ってくる。ルール?連帯責任?一体何の事だ。

・唖然とする。目標にしてきた光景だ。だが、本当に見れるとは思わなかった。それくらい多かったのだ。ここに眠っていた人達は。

・「あれ?キミもここに居た人?」振り返ると、生徒が立っていた。君も、という言葉を聞く限り恐らくここで眠っていた人なのだろう。

【咲良】
●「何故貴方が――」生徒会室近くの廊下を歩いていた咲良はその声に振りかえる。半開きにされた生徒会室の扉。そこに入っていった人はここの職員ではなかった。白衣の客というのは誰なのだろう。
●一般生徒が開きっぱなしに置いていった雑誌に目を落とす。雑誌のタイトルを改めて一瞥して軽くため息をつく。きっと当事者たちは大変なのだろうな、と同情を込めて。【12月25日の記憶】
●咲良は持ったノートに視線を落とす。確かこれを貸してほしいと言っていた子がいた様な気がするのだが、気のせいだったのだろうか。

●聖フィアナの背後組織に関する記事。財団の裏の顔がカルト集団だという内容は学生にとってはかなりの刺激だろう。今日はどこもそんな話でもちきりだ。

●一般生徒ならともかく、自分は特権者だ。自分の意志で行き来できるのが特権者ではなかったのか。なら何故自分はここにいるのだろう。

●「夢世界に一般生徒が――?……いや、そんな気配はないけれど」椿会長の回答を受けて考え込む。帰省もしてない。夢世界にもいない。なら、この違和感はなんだろう。

●いや、もしかしたら気を張り過ぎなのかもしれない。ここ数日おかしな出来事が続いたから疑心暗鬼になっているだけなのだ。

・「君たちだってあの事が外に出るのは困るのだろう。なら、悪い話ではないと思うが」淡々とした声。聞き覚えのないような、だがどこかで聞いた様な、そんな声だった。

・最近こういう事が妙に多い気がする。だが、そこに夢世界は関係ないはずだ。堕ちれば会長達が気付くだろうし、最近は帰ってきた子の方が多い位なのだから。

・「――って生徒、いましたか?」何気ない質問。自分ですら愚問と感じ、すぐに撤回しようと思った言葉だった。だが、会長の反応は意外なものだった。

・「……さあね」ただそれだけの言葉。だが、今彼女は否定しなかった。いない、とも、何の事、とも言わなかった。それが恐ろしいくらいの違和感の様に感じたのだ。

・おかしい。元々この町は噂が多い。だから今回の聖フィアナの噂もその1つだと思っていた。でも、何故今なのだろうか。背後組織のスキャンダルくらいこの30年間で掴めないものなのだろうか。

・「お姉さんもねぇ、困ってるのよぉ。こういう事が無いようにっていっつもチェックしてたのに。おかげで少ない所員が更に居なくなっちゃったわぁ」対応に追われちゃって、と巴絵はため息をついてみせた。

・何故こんなものが。夢路第一は結構何でもありだ。だが、レテや特権ならともかく、こんなものがあらわれたことなどなかった。

・「ねーねー聴いた?あの噂!」一般生徒がキラキラとした目で話しかけてくる。その続きは分かっていた。目覚めた人々が急速に広めている噂の事を。

【織元真生】
・皐月院の研究員は何人か見た事があるが、今日来た人は初めて見たように思う。しかし妙な違和感がある。見たことないはずなのに、どこかで見た様な気もするのだ。

【法月鈴穂】
・「あれが知られて困るのは君達の方じゃないか?」冷静な、だが少し馬鹿にしたような声。耳をそばだてていた誰もが怒りを覚えたその瞬間だった。

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monta・開封記憶

【テオ】
●「うちってさ、何で夢路“第一”なんだろう」何気ない特権者の問いは、聞き過ごすには印象的すぎた。確かに、何故一つしかないのに「第一」なのだろうか。

●『早く!さもないと君まで――っ!』椿会長の悲鳴じみた叫びはノイズの様に乱れて聞こえなくなる。奇妙な静寂の中、現れたそれは一際異彩を放っていた。

・それはほんの些細な違和感だった。『なに、この、感覚は――』戸惑う様な声はやがて焦りに変わる。『早く離脱するんだテオ!急いで!』その声はほんの数瞬遅かった。

・「はろーはろー。夢はハッピー?現実はアンハッピー?そんなあなたに永遠のハッピーをプレゼント〜」恐らく人。だが、本当に人であるとの確信もとれなかった。

・ぐらり、と足元が揺れる。いや、消失した。突然の浮遊感になすすべも無く身体が堕ちていく。「怖がらなくてもだぁいじょうぶ〜!どうせぜーんぶ忘れちゃうんだからさぁ」

・クスクスクスとソレは嗤う。「君ははじめっから存在しない。居る事実すら無かった事になる。人が消えるってねぇ〜簡単な事なんだよぉ〜」【12月30日】

・例えば夢路町がそれなりに大きな都市だというなら、「第一」と付く理由も分かる。だが、夢路町は決して大きくない町だ。小さな町に無理やり3校詰め込んだ様な町。

・「元々聖フィアナとか皐月院とかが「第二」「第三」みたいな感じだったのかなぁ」呟かれた言葉は今のところ有力そうにも見える。だが違和感がぬぐえないのも事実だ。【12月28日】

【蒔菜】
・【おねがい もういちどだけ おきて】声に引かれる様に、少しずつ意識がはっきりしてくる。

・「やぁ出衛工さん。キミのクラスの子たちにも伝えてくれないかな。今日一日は夢世界に行かないでほしいんだ。何があっても、絶対に」椿の言葉は静かで穏やかだったが、反論も質問も許さなかった。

・「だからぁ!なんで帰れないのよ!もう冬休みじゃん!」センターの受付で女子生徒が怒鳴っていた。どうやら帰省受付が出来ない事に対して怒っているらしい。【12月24日】

・「困るわよねぇ。まぁ、困ってるのはおねえさん達も一緒なんだけどねぇ」ぽつりと呟く声が背後から聴こえた。巴絵は普段通りの白衣に身を包み、困ったような顔でその光景を見ていた。

・「それはここの場所にうまみがあるからだと思うわよぉ」問いに対し、巴絵はそういった。「どの学校の母体にもここで欲しい力がある。だから皆して頑張ってるんじゃなぁい」


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紗綾・夏月・開封記憶

【夏夜】
●それは嗤いながら話し続ける。「現実は楽しいかな?辛くないかな?誰もが君の思い通りになる世界が欲しくないかな?めんどくさい世界なんていらないでしょ?」

●「いや、足りない――」祝勝ムードの中、ぽつりと椿会長はそう言った。足りない?だって、もう――は、既に……。

●「ここは……?」そこにあったのは山だった。紙の山。下に行くほど古く、茶色く変色しているものもあった。

●ここは夢世界にしか扉が無く、特権者しか入れない様に作られていた。なら、ここは特権者が使用している空間という事ではないのか。

・否定するとそれは更に嗤った。「それは君が見えてないだけ〜。いや、まぁ君が見えてても見えてなくても、誰も気にしないってことかもしれないけどね!」

・『継がなくちゃいけない。いつかゲームに勝つために。いつか終わらせる為に』声は書物から聴こえた。『でも、いつかって――いつなの?』

・闇の中に積み上げられた本の山。それは想いの結晶だと本能が告げていた。これは記憶だ。誰かの、心にたまった記憶なのだ。

・『ずっと待っているなんて出来ない。大切な生徒に、巻き込んでしまった子たちに、これ以上の苦しみを味わって欲しくない』訥々と聴こえるのは、紛れも無い、会長の声だった。

【学校情報の開封・夢路第一2】 かつては夢路第一と夢路第二の二校が存在。夢路第一は「才能あふれる生徒の教育」と称して研究所によってデータのがとれているシステムの起動。夢路第二は「才能を見つけ、伸ばす教育」と称して構築されたばかりのシステムの実験を行っていた。


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ゆず次郎・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【螢】
●「――を放棄するんだ」冗談を言っている口調ではない。だが、これを失っては困る事の方が多い。いくらなんでも何も知らされないうちに手放すのは危険だった。

●「ねぇ知ってる?あの女子校さ――」クスクスと悪意のある笑みを浮かべながら語るクラスメイトを見て軽くため息をつく。この町に限った話ではないだろうが、 毒のある噂ほど広がるのが早いものだ。

●随分と拍子抜けだ。本当に全ては終わったのだろうか。だが、終わったにしては心を蝕むこの違和感は何だろうか。

・最も、こういった噂に飛びついてしまうのは今の環境もあるのかもしれない。帰省できない。普段の学校生活では然程意識しないものの、この町は隔絶された空間だ。

・そこから出られないというのは、町規模の広さがあるとはいえど閉塞感を覚えるのかもしれない。だから噂にも悪意がこもる。

・「何か雰囲気変わったね〜」一般生徒の声が聴こえる。話題の中心に居るのは今朝登校してきた生徒だ。確かに昔はもう少し並だったような気がする。

・少なくともあんなに派手ではなかったはずだ。誰かの注目を集めるような感じには見えなかった。生徒はクスッと愛らしく笑って告げた。

・『どうしてこんな――?!』思わずと言った椿会長の声。攻撃の嵐を避けながら思案する。どうして、と彼女は言った。一体これは何だ、ではなく。知っていたのだろうか?

・『早く!君まで帰れなくなってしまう!』危機迫る声。君まで、という事は他にも同じ状況になっている人がいるのだろうか。

・「落ちて、堕ちて、バラバラに砕けて融けて無くなっちゃえ〜。どうせだーれも覚えてないんだからさ〜」今までの調子に乗った声とは違い、まるで吐き捨てるような空気が混ざる声だった。

・【12月31日 23時58分】データがありません。

・「どうして帰れないって、それはおねえさんに聞かれても困るわぁ。別におねえさんが停めてるわけじゃないんだからぁ」だけどぉ、と巴絵は唇に指をあてる。

・「なぁんか色々会長さん達が企んでるっぽいわねぇ。最近こそこそ動いてるの良く見るわよぉ」にぃ、と獲物を見つけた獣の様に目を細めて彼女は言う。

・「聖フィアナの会長さんもあのスキャンダルで追いつめられてるみたいだし、皐月院の坊やも何か作ってるみたいよぉ」夢路第一は出遅れている、と言外に告げられているようだった。

・『どうして――どうして来たんだ!こっちに来ては駄目とあれほどいっただろう?!』怒りではなく驚きと戸惑いがその声からは伝わってきた。【12月30日】

・「センターか。どうもあそこの人間は好かぬのう」扇子を指先でもてあそびながら弓弦は言った。「やつらから一度たりとも他校と協力せよという言葉を聞いた事がない」

・追い立てるように敵対を促し、常に対峙させ続ける。センターの目的も利点も分からないと言うと、弓弦は少し考え込む仕草を見せた。「さてのう。だが、協力されては困るのだろうよ」【12月24日】

・「お、俺が聞いたのは、ね、ねがい、を叶えてもらえる人間は、ゆ、ゆめじ様に会えるって、夕方の世界にゆめじ様は居るって!」錯乱状態の男子校生は焦点の合わない目を激しく泳がせながら叫んだ。

・『そんなもの――誰かの犠牲によって成り立つものなんて存在しない!』ビリビリと脳裏に響く様な叫び声だった。一体椿会長は誰と対峙しているのか。

・【たてる? まだ、うごける?】声は問いかけてくる。立たねばならない。負けていられない。このまま終わりだなんて認めたくない。

・「ほら、いつも立ってるじゃん。センターの受付にさー。あの人がいないって巴絵さんがいってたよ」特権者の言葉に記憶を思い起こす。確かに居た様な気がする。

・だが、名前なんて覚えていない。正直「センターの人」とか「受付の人」とかで事足りるのだ。別に親しいわけでもなければ親しくなる理由だってない。

・『誰か――聴こえてるなら、返事をせよ――』脳裏に広がったそれは、疲弊しきった、彼の声だった。馴れた彼女の声ではなく、彼の――。

・細かい事は覚えていない。だが、最後にはきっと何かを思ったのだろう。自身の輪郭さえも曖昧なあの世界で、確かに何かを掴み取ったはずなのだ。


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かす・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【坂月愛】
●今日は随分静かだと思った。普段も出ないときは出ないが、それでも1、2体は見るものだ。だというのに、今日は2時間うろついても影すら見る事が出来ない。

●「愛、すまぬが椿会長がどこに行ったか知らぬかの?」弓弦に呼びとめられて振り返る。会長がどこにいったかなんて知る筈がない。そもそも彼女の気まぐれなんていつもの事ではないか。

●耳も塞げない、目も閉じれない。その場に背を向ける事も、叫んでかき消す事も出来ない。ただただ見せつけられる。見たくないものを、触れたくないものを。

●誰か特権者が話しでもしたのだろうか。だがすぐにそれはありえないと思いなおす。正直言っても良い事なんて何もないのだ。だとするならこれは一体何なのだろう。

【丘崎玲一】
●「ん? あぁ、あの人はメイヤールグループのアレセイア技術班の人だそうだ」迅会長はアタッシュケースを机の下にしまいながらそう語った。

●なるほど、それぞれの学校の背後にはアレセイアの技術班がいるとぼんやり聞いた事がある。夢路管理センターの研究班が作った基礎を元に 日々開発をしているとかなんとか。

●あれが最後だったのだろうか。確かに随分と苦戦したし、何度も相手したいやつではない。だが、全てのレテを倒せば夢世界が消えるというわけではないのだろうか。

●それはあまりに信じ難く、だが同時におそらくそれなりの数の特権者が願っていただろう光景がそこには広がっていた。


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Nozk・開封記憶

【天勝寺染真】
●聞いてた話と違う、と天勝寺は思考する。――はこっちに存在しないはずだ。なら路地裏で見た――はなんなのだろう。

●「お?先輩……って言うべきなのか微妙に悩むとこっすけどね」迅という男は元気の塊のような男だったはずだが、ここ数日の騒動のせいだろうか。目の下にクマを作り、疲れた様子が隠し切れていなかった。

●押し寄せるレテの群れに相対する。応援を請おうにも、会長からの情報を聞く限りどこも似たような状況の様だ。今はなんとか自力で突破するしかないだろう。

●【12月31日23時:記憶データが存在しません】

●反射的に振り返るが、そこには誰もいなかった。そこは真っすぐ伸びた一本道で周囲に身を隠す場所は無い。ならば先程の――。【12月25日の記憶です】

●手を伸ばす。今の天勝寺に残された方法はそれしかなかった。今まさに沈もうとしているその手を掴もうと、全力で駆けて手を伸ばす。

●状況を整理しよう、と確実だと思われる項目を書いていく。まずは、一つ目。夢世界と現実の風景は見た目はともかくリンクしている。現実に無い建物は無いのだ。

●そして建物の室内は扉を開けた人に左右される。なら、夢世界の外観を作っている人は誰なのだろうか。

●「なぁ聞いたか?―――」その後に続いた言葉に驚く。いや、自分で無くてもおそらく全特権者が驚くだろう。

●「これは……」迅会長の顔に浮かぶのは喜色ではなく困惑。こんな喜ばしい日に何故あんな顔をするのだろう。それはまるで、幽霊を見たかのようだった。

●地面という地面が黒い闇に変わる。それ以上先に進む事も出来ずに身体はどんどん沈んでいく。気味悪い事にその闇は不快感も粘り気もなく、ただ空気の層の様に静かに彼を呑みこんでいった。

・「無理も無茶もしますよ。俺は、こんなものを継がせたくはない。あいつにも、その先にも」何を、とは言わなかった。だが彼の強い決意だけが伝わってくる言葉だった。

・「原因不明の病気でこん睡状態だった生徒達が一斉に起きたって」原因不明の病気ではなく、夢世界に堕ちていたが正しいが、その生徒達が目覚めたという情報。

・そもそも夢世界とは何なのだろうか。現実ではありえない。レテも特権も、周りの景色も。

・一番納得いくのはヴァーチャルの世界だ。例えば脳にそういった光景を見せる様にプログラムを送る、というような。SFだが、異世界よりはありえない話ではないだろう。

・二つ目、目覚める特権は学校によって左右される。だが考えてみればおかしな話だ。特権はその人が最も思い描くもの、望みの権化ではなかっただろうか。

・平和なものだ。このまま滞りなく終わればいい。何気ない現実。何気ない日常。それがこれからの全てになればいい。

・何故「夢世界」なのだろう。確かに眠っている時にこちらに来る事も多い。そういう意味では夢世界だが、起きてるときだって来れるのだ。

・沈みゆく中、直感する。この先に在るのは終わりだ。問答無用の、絶対不可避の、強制終了だけだ。

・それは声ではなく、音でもなく、近い感覚を上げるなら脳内にテキスト表示されたような感じだ。

・【あなたは いきて いたい?】それは聞いてきた。生きていたいのかと。足掻くのかと。答えはもう決まっていた。

・静寂、というよりは無。ただそこには無だけが広がり、有である自分が異端だった。

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我落太郎・開封記憶

【鋼輔】
●「また群れ……? 一体何で……いや、今はそれどころじゃないか。やれるか?」迅会長の問いかけに思案する。目の前には視界を埋めんばかりのレテ。さて、どうするべきだろうか。

●それは人間の原初の感情。心ではなく、細胞に植え付けられた恐怖という本能。引きずり出された感情の奔流に、思わず膝をついてしまう。

●「なぁ知ってるか? ほら、女子校あるだろ。聖フィアナ。あそこって魔女の学校らしいぜ」意味が分からないと首を傾げる彼に、クラスメイトは面白がるように雑誌を開いて見せた。

●いやに校内が騒がしい。普段の喧騒というより、歓喜と驚きの混ざった声が多い気がする。見えない糸に引かれる様に音の発生源――昇降口に足を向けた。

・「見た?見ちゃった?どうどう?現実は辛いでしょ〜見たくない〜聴きたくない〜なことばっかりでしょ?」ふざけた喋り方でそれは続ける。心を土足で踏みにじってくる。

・聞いた事もない雑誌名。こんなものが売っていたのかとすら思うレベルだが、そんな思考は表紙に書かれたある文字をみて吹き飛んだ。


【春之助】
●「何言ってんだよ。元からこのクラスは28人だろ」クラスメイトの言葉に、納得している自分と違和感を発している自分がいる事に気づく。このクラスは本当に28人だっただろうか――。 ・「あらあらぁ? 連絡いってなかったかしらぁ。今帰省受付出来ないのよう」困った様に頬に手を当て、巴絵は深くため息をついた。

・「私だってねぇ、聞いてないんだからこんなの。いつもなら皆を見送って年越し準備〜ってとこなのに。何かしらぁ。陰謀かしらぁ」気だるげな中にも戸惑いをうかがわせるような声。本当に予想外の事らしい。

・召喚出来ない。アレセイアがピクリとも反応しない。フリーズとも考えたがありえない。アレセイアはアプリであってアプリでない。全く別のもののはずなのだから。

・だがすぐに思いなおす。さすがに12月にもなってクラスメイトの人数を把握していない方がおかしい。ならきっと、ただの勘違いなのだろう。

・随分と暇だ。レテはいつも大量発生している訳ではない。多かったり、少なかったり。日によって様々だ。

・それでも大体1体くらいは見るものだ。だというのに今日はなんなのだろう。レテの姿どころか出てくる気配もしない。

・「わからねぇままでもいいんじゃねぇか?」迅会長はあっさりそう言った。「元々変な力なんだ。色々考えたって仕方ねぇよ」それによ、と彼は続ける。

・「この力だって、いつかパッと消えて無くなるかもしれないしな」二カッと笑って会長は言った。夢世界も、特権も、全てただの夢になるのだと。

・「なぁなぁ、お前はゆめじさまに会ったら何願う?!」随分と無邪気に聞いてくれる。夢路町とゆめじさま、安直だがもう一つの世界というのが夢世界だとしたら彼の考えは大間違いだ。

・夢世界は願いを叶えてくれる場所なんかではない。与えられたのは武器のみ。戦うための、力だけだ。



【銀花】
・「会長を見かけませんでした? 姿がどこにも見当たりませんの」紅羽が焦りと戸惑いを含んだ表情で訪ねてくる。会長の姿が見えない?

・おかしい。会長はいつも同じ場所にいた。現実ではいつも学校にいた様な気がするし、夢世界では必ずと言っていいほど生徒会室にいた。

・「聖フィアナの母体はカルト教団だ」それだけならただのスキャンダルだ。少なくとも一般人にとって、それ以上の響きは持たない。

・「伝承付与、魔法使い――」ぽつりと口から零れる言葉。聖フィアナの特権者達が持っている力。機械などの人工物は一切なく、言うならば母体の明松財団が最も望んだであろう魔法使い達だ。

・それでもこの力は自分が望んだものだ。望んだものが形になったはずだ。夢世界の特権は望むもの、願うものに姿を取るのだから。

・花園を踏み荒らす無粋な鋼鉄。他のものとは全く性質の違うそれに、全身の神経が張り詰めていくのを感じた。

・「戦う?何のために?」それはケラケラと嗤う。「誰かの為?平和の為?ばかだねぇジイシキカジョーだねぇ〜だってさぁ、そんなもの、誰一人だって見てないのにねぇ〜」

・闇に呑まれる。食われる。引きちぎられる。砕けて、融けて、やがて意識すらも消えてしまうのだろう。

・【12月31日1時】データがありません。

・何かの、声が聴こえた。ぼんやりと遠くに、聴こえたかすらも怪しいほど微かに、何かが聴こえた気がした。



【龍徳】
・「おい!昇降口見てみろよ!大ニュースだぞ!!」駆けこんできた一般生徒の声に思わず視線が向く。大ニュースとは一体何なのだろう。

・「どうして自分がこの力を得たのか、か……」どうして、というのはなかなか難しい。なにせ特権者には共通点が無い。

・血筋はありえない。双子や兄弟で特権者というのもあるが、全員と血がつながっている訳ではない。国籍もありえない。外国籍の生徒もいる。

・思わずスマホに視線をおとす。起動したはずだ。なのに全く動く気配がない。特権が出現しない。

・『気をつけて!そいつは今までのやつとは格が違う!』会長の声と同時に、そいつは腕を振り下ろした。

・「じゃ〜ね〜。だ〜いじょうぶ!君が居なくなってもだ〜れも悲しまないから」遠のく意識の中、そいつは最後に言った。「だって〜だ〜れも君の事なんて覚えてないんだから!」

・「今センターに私一人なのよぉ。カウンター任せられる職員がいないしぃ」やはり対応に追われているのだろうか。彼女の姿は良くみるものの、カウンターに立つ姿は確かに珍しい。

・「ほんとはねぇ、むしろ私が出たいくらいなのよぉ。でもここメインの職員さんがどっかいっちゃったのよねぇ」見かけたら戻る様に言っといてぇと彼女は手を振った。

・ぼんやりとはしているが、まだ意識は残っている。ここがどこかも、今の日時も、そして自分が何者かすらも、正直あいまいだ。【12月―――日―――時】


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スイ・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【錦木】
●最近おかしなことばかりだと錦木は思う。冬休みで浮足立ってるのだろうか。クリスマスの名残というわけではないだろうが、浮ついた空気が寮内に蔓延していた。
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音傘・開封記憶

【むつと】
●そのまま何事も無く歩きだそうとしてむつとははたと首を傾げる。あそこは誰かいただろうか、と。いないとしたら、この違和感は何なのだろうかと。

・黒い部屋だ。ノート……いや日記帳だろうか? それ以外何も無い部屋。先に行った同行者はノートを開いたまま愕然と立ち尽くしている。

●同行者の持つノートを横からのぞきこむ。そこに書かれた――の羅列を見て、最初は何故そんなに同行者が愕然とするか分からなかった。だってこれは。この――の羅列はただの――。

・ただの名簿だ。学年、クラス、名前。それと恐らく日付。そういったものが手書きで記されているだけ。『・2013年11月25日 高校3-2 ●●●●』といったような。

・何もいない。いるのは特権者とその召喚物だけで、レテの姿がどこにもいなかった。どこまでも静かな世界。それはとても、とても平和な世界の様に見えた。

●この平穏な時がそのまま続けばいいのにと思う。というかこれで全て終わったのではないだろうか。目の前の課題はすべて片付いたのだから。

●最近妙にこの違和感が多い気がする。この間別の特権者も似た様な事を言っていた。だがレテに食われても自分が食われない限り記憶は無くならないはずだ。 そして食われた覚えは無い。

●「聖フィアナの話聞いた?」まただ。またこの話だ。今日はどうやら学校中、いや町中この話題でもちきりらしい。【12月25日の記憶】

●だが違和感もある。本来この町は学校、商業区関係者以外の立ち入りはほぼない。マスコミ関係者なんてまず入れないだろう。 なのに何故フィアナ生徒の登校写真など撮れたのだろう。

●この町は学園町である以前に三つのそれなりに影響力のある背後組織が存在する。その三つの目をかいくぐって情報を流出させるなど可能なのだろうか――?

・「夢路町では代々夢世界に関する研究をしていて、それを会長達が主導してるって」そう聞いたのだという。それはあまりに荒唐無稽の様で、だが否定をするには否定要素が足りなかった。

●「だけどさ、もしこれが真実だとしたら――」噂を語った特権者は言うべきか一瞬逡巡した後口を開く。「私達とんでもない事に巻き込まれてるってことじゃないの?」

●「君らは何を持って『ゲンジツ』って言ってるの? 見えてるものが現実ならこの夢世界だって現実じゃない! なら何もできない無力なあっちよりもずっとずっ とこっちのほうが素敵でしょう?」

●夢路町に公立高校は1つしかない。なら「第一」なんて名前をつけなくてもいいのではないだろうか。何故わざわざ「第一」なのだろう。

●眼前の光景に目を見張る。その光景は見慣れたものの様で、だがしかしそこに存在してはならないはずだった。

●こちらに来る用事も緊急性は無い。気が向いたときだけ行って、身体を動かすのもありだろう――。

・【12月31日 11時:記憶データがありません】

・【12月31日 16時:記憶データがありません】

・「お主らはあちらへ戻れ!今の夢世界は何かがおかしい――っ!」そう残して弓弦はその場から走り去った。何なのだ。一体何が起こっているというのだ。

・夢路町内部に関する情報はかなり厳しく制限されている。もちろんここが夢世界なんていう謎の世界が在り、そこに出入りしている人間がいるなど知られてはいけない事だ。

・「夢路町の情報統制してるのってどこなんだろう」ふと疑問が口をついて出た。例えば情報を隠しているのがそれぞれの背後組織であれば、隙間があるのもわかる。

・何せどこもマスコミがスキャンダルを見つけたくてしょうがない組織ばかりだ。有名であれば、巨大で有ればある程そういった危険は付きまとう。

・「センターじゃなかったっけ?そういうの」以前そういう話を聞いた事があると、特権者は言った。夢路に関する情報統制、生徒の帰省管理。アレセイアの調整以外にそういった事もしていると。

・だが、言っては何だが夢路管理センターは1組織に過ぎないはずだ。本来情報統制、隠ぺい工作等は各組織の方が優れているはず。

・「誰」と問う声が合った。自分かもしれないし、別の人間かもしれない。とにかく、そいつにむけて「誰だ」と声が上がった。

・声が聴こえた。声、誰かを呼ぶ声。いや、誰かではない。自分だ。今誰かが自分を呼んだのだ。

・かつて第二があったのだろうか。だがそんな存在は訊いた事も無い。かつてあったのなら学校のパンフレットに載ったりしていてもいいはずだ。

・何故、何故あれがここに。おかしい。現実と夢世界は異なる存在のはずだ。いや、それ以前にこの現実であんなものが存在するはずがない。

・あぁ、どうして。何故、現実にレテがいるのか。夕暮れの空は刻一刻を姿を変え、あちらの世界とは異なるのに、あれがいるだけであちらを連想させる。

・いや、違う。それだけではない。レテは人を食うのだ。あちらで食われれば夢に堕ちるが、こちらで食われたら一体どうなってしまうのか。

・「わたしはいったいだれでしょう〜み〜んな知ってる、み〜んな見てる。だけどみ〜んな知らない。み〜んな見てない。わたしはぼくはおれはそれがしは一体だれでしょう〜」それは嗤う。

・「あっはははははは愚かだねぇ馬鹿だねぇ。何にも知らない何にも覚えてない。だーから皆消えちゃうんだよだから皆消しちゃうんだよ」

・全て終わったのだ。今はまだその現実についていけないだけで、きっとそのうちなれるのだろう。現実とはそんなものだ。

・あぁ、終わり。終わりだ。私という存在が、意志が、身体が、ドロドロに溶けて、消えて、堕ちてしまう。

・気のせいかもしれないし、もはや明確な意思すら失った私の幻覚かもしれない。だが、聴こえたのだ。
【要哉】
●「こんにちは」にこりと張りつけた様な笑みだけ残して去っていく人物。見た事も興味も無かったが、胸元につけたバッジにだけ見覚えがあった。 最も、見覚えのない人の方が少ないだろうが。

●「そもそも夢世界って何だったんだろうな」特権者の会話が耳に届く。夢世界、特権者、レテ。この世でありえないものが存在する異質な町。

●「良く考えたらさ、知らない事ばかりじゃないか?何で特権を使える人間がいるのかとか、何で夢世界はあんな風景なのかとか、なんで――」

●「何で、会長だけアレセイアを使わないで召喚できるのかとか」【12月28日の記憶】

・【12月31日12時:記憶データがありません】

・【12月31日15時:記憶データがありません】

・声が聴こえない。どうしたのだろうと首を傾げる。電話ではないのだから電波の問題ではないだろう。いや、そもそも繋がらない事がありえないはずだ。【12月30日 お昼】

【叶】
●「ねぇ、あの雑誌見た?」まるで熱に浮かされたように誰もかれもが同じ話ばかりする。話のネタはあのことばかりだ。

●少し前まで暗い雰囲気だったがこの一大ニュースに皆忘れ去ってしまったらしい。それくらい目の前の事実は大きなことだった。

●終わったのだろうか。あれで全ては解決し、戦いは終わったのだろうか。だとすればきっとそれは祝福すべき事なのだろう。

●何故、どうして、何度試みてもそれは一向に反応しない。まるで初めから何も無かったかのようにピクリとも動かない。

【光希】
・ここに誰か座っていた様な気がしたのだ。仲が良い子がいたと思ったのだ。だが、名前が思い出せない。顔も、思い出せない。

・あるのは「先程まで誰かが――仲の良かった誰かがここにいた」という感覚だけ。だが気のせいなのだろう。

・『敵が多い――頑張ってしのいで!だけど無理はしないで!』出来るだけ援護するから、と会長は言った。皆戦ってる。ここで引くわけにはいかないのだ。

・平和だ。昨日の喧騒がうそのようだ。全てが本当に夢だったような気さえしてくる。夢も何も、こちらは夢世界な訳だが。


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ソーイチ・開封記憶

一般人の記憶4つ解禁
【木乃原】
●――笑った。今確かにそれは笑った。抗おうとする己を、戦おうとする木乃原を嘲笑うように。そんな事は今まで無かった。何かいつもと違うのかもしれないと木乃原は意識を改める。
・レテには見えない。だが、人である様にも思えない。目の前のそれは人というには禍々しく、レテと呼ぶには感情に溢れていた。

・「ハハッアハハハハッ! 戦う?バトルしちゃう?やっちゃう? いいねいいね王道少年漫画だねぇかっこいいねぇハハハハハハッ!」壊れた様にソレは嗤う。嗤い続ける。


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巫黎 綟・開封記憶

【深紅】
●足が震える。手が震え、呼吸が乱れる。心臓を握りつぶされるような、いやそれ以上の恐怖。死ぬよりも、死ねずにこの恐怖を抱き続ける方がきっと恐ろしい。そんな感情が嵐の様に深紅を襲う。
●「あぁ、そうだね……。これは喜ばしいこと、だよね」椿会長の言い方がぎこちなかったのはきのせいではなかっただろう。

●「聖フィアナって魔女の巣窟らしいじゃん。ミッション系に魔女とかどこのアニメーって感じだよねー」嘲笑の声。同意する声。クラスの各所から似た様な悪意の会話が聞こえてきた。


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空月・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【皐月】
●「皐月、逃げろ。それは君一人じゃかなわない!」脳裏に椿会長の声が響く。武器を構え、皐月は自問する。確かにこれはどう考えても一人で戦えるものではない。だがこの奥には――。 ・「最近なんか空気が悪いよね」特権者の言葉に同意する。最近妙に噂が広まるのが早い。異常なほどに。


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オットリア3世・開封記憶

【禮湖】
●「嘘――そんな事……」朱音会長にしては珍しい、気の抜けた様な呆然としたような声が聞こえた。なにかあったのかと問いかけると思いもよらぬ言葉が返ってきた。

●「君はな〜んで戦うの?この法治国家日本に育って刺激がほしかった?刺激がほしくてここにきた?」馬鹿にするように、憐れむように、それは嗤う。嗤って問いかけてくる。

●「それともさ、ここでなら辛い現実を忘れられるから?」出来ないと諦めた事を、したいと願う事を、叶えられるから?

・本当に夢世界を消したいのか、とそれは問う。それを目的にやってきた。会長達だってそれを望んでいるはずだ。

・「――足りないのに」それは本当に無意識での言葉だったのだろう。会長はハッとした表情になって慌てて笑みを作った様に見えた。

・何故だろうか。今まであんなに自然に思い描けたのに、あれほど自然に召喚出来たのに、今はどうやって召喚していたのかが分からない。

・誰かに呼ばれた。とても小さな声で、とても必死な声で。誰かが私の名前を呼んだ。

・あの噂が消えたのは助かるが、今度の噂はいやには約広まった様にも思う。元々噂が広がるのは早い。特に夢路町では―――そして女子しか居ないこの聖フィアナでは。

・だがそれでもおかしい。早過ぎるのだ。加えて、全員がこの噂に熱狂的に見える。通常もう少し人によって温度差があるものだ。なのに一体どうして。

・平和だな、と思う。忙しかった日々が少しだけ懐かしくすら感じられる。これで終わった。本当に終わったのだ。

・聴こえない。繋がらない。まるでこの世界に放り出されてしまったようだ。あの声は、あの繋がりは、無くなる事を想像すらできないものだった。


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こるり・開封記憶

一般人の記憶2つ解禁

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美月・開封記憶

一般人の記憶1つ解禁
【真信】
●『――信、真信! 返事をしてくれ!』迅会長の声に我に返る。どこかはっきりしない頭を振りながら周りを見回し、声にならない驚愕の息をこぼした。何故――。

●「なぁ、――――って覚えてるか?」眼前の人物の問いが分からず眉を寄せる。――――? 覚えていないはずが無い。だってまだ一年経っていないのだから――。

・誰かに呼ばれた気がした。何故か返事をしなければいけない気がして、誰かも分からないのに応えなければいけない気がして、真信は口を開きかけ――。

・どうして、今夢世界に居るのだろうか。授業が終わって、帰ろうとして、先ほどまで確かに現実に居たはずだ。だが、声が聴こえて振り返ろうとしたら、此処に居た。

・自分の望むもの、本質が形になって表れると会長は言った。だが、ふと思う事がある。本質は人ぞれぞれ違うはずだ。なのになぜ、学校ごとに分かれるのだろうか。

・最も、校風と言ってしまえば簡単かもしれない。自由な夢路第一の特権が多種多様なのも、どちらかと言えば固い気質の男子校が機械に特化するのも。

・静かだ。あの戦いの後だとどんなものも味気ないように感じると思っていたが、想像以上の静けさだった。

【雀蘭】
●おかしい。不調という事はあるのかもしれない。だがこんなに一斉に起こるものなのだろうか。傍にいる仲間たちの様子を見ながら思考する。

●「ねぇねぇこの雑誌見た?女子校のスキャンダル!」クラスメイトの会話を聞いて嘆息する。今日はどこもそんな話ばかりだ。

・噂は娯楽だ。特に学生の町である夢路町は、大人の娯楽というものがない。例えばお酒だったり煙草だったり。

・どこかしらか持ってくる連中というのは少なからずいるが、頻繁に触れるわけではない。そうなると、彼らにとっての娯楽は少し毒のある噂話だったりするのだ。

・融ける。崩れる。薄れていく。自我がどんどんなくなっていく。何のために戦ったのだろう。何のために足掻いたのだろう。段々それすら消えていって、どうでもよくなっていく。


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仲田・開封記憶

【鷺沢巴】
●「ほら、あれ聖フィアナじゃない?噂のさ――」他校の生徒らしき声が聞こえる。悪意の混じった笑い声。嘲りの声。噂、とはもちろんあの雑誌の話だろう。
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マコ・開封記憶

【優希】
●そもそも何故眠ったままになるのだろう。いや、植物状態というなら分かる。だがレテに食われた人間たちは植物状態とは違う状態にあった。

・強いて言うのなら「隔絶」。成長も、腐敗も、時の流れから隔絶された様に、食われた人間達は眠り続ける。何日も、何年も。

・ふと、そこで何かが引っ掛かった。「あのさ……」同じく引っかかりを覚えたらしき特権者が口を開く。「食われた人にも家族、いるんだよね。なら、どうして――」

・変だ。悪意のある噂が長引くのはよくある。からかう事もあるだろう。しかし、今回の噂の広まりようはなんなのだろう。

・もしかすると、あれが最終戦だったのだろうか。大変な事は大変だったが、幕引きとしては随分あっさりしたものだ。

・【12月31日16時】データがありません。

・戦うしかない。原因追究は後だ。今こいつを倒さなければ被害は自分達だけでは済まない。今やらなくては。【12月26日の記憶】

・「あいつってあんなにはっちゃけた奴だっけ?」首を傾げながら言う友人の言葉に、視線をそちらへ向ける。確かに、記憶とは違う気がする。

・悪く言うつもりはないが、あんなふうに人々の中心で輝くような人ではなかった。大体一人で、特に目立つ事も無かったような印象だ。【12月27日の記憶】

・「あれ……?」思わず間の抜けた声が出た。先ほどまで自分は普通に帰宅していたはずだ。なのに、どうしてこんな所に居るのだろう。

・「アッハハハハハハハハハッ!ほんっとーに君たちは何も知らないんだね!」嘲る様な嗤い声。異常な空間に、異常な光景に、脳の処理が追い付かない。

・ぶつかった人間に謝罪しつつも、相手の名前が浮かばない。見覚えがある気はするのだが。その戸惑いを察したのか、男は無表情で横をすり抜けていった。 ・「どいつもこいつも――」すれ違う瞬間、その男は確かにそういった。微かな声で、だが同時に抑えきれない怨嗟を含んだ声で。

・「どうして、誰も騒がないのかな。だっておかしくない?何年も子どもが目覚めないんだよ?しかも同じような人が何人もいるんだよ?」それは誰もが抱えていただろう根本的な違和感だった。【12月28日】

・「堕ちるって結局何なんだろうね」誰からともなく切りだされた言葉。当たり前のように使っていたが、夢に堕ちるとはどういう事なのだろう。夢世界にいったまま精神だけが帰って来ない。【12月25日】

・いくらなんても早過ぎないだろうか。雑誌が発売されたのは、店頭に並んだのは今日だ。有名でもない雑誌を全員が一斉に買って、一斉にみたとでも言うのか?【12月25日】

・熱に浮かされたようなこの広まりよう。誰かが関与しているとしか思えない。だが一体誰が得すると言うのか。

・「聖フィアナの噂が広まった理由?そんなのおねぇさんが知るわけないじゃなぁい」むしろこっちが知りたいわぁ、と気だるげな仕草で巴絵は言った。「でも、気になるなら自分で調べてみたらぁ?」

・他人事じゃないかもしれないし、といった彼女の言葉が理解できなかった。「だってぇ、聖フィアナがおちぶれれば、得をするのは夢路第一か皐月院のどちらかでしょう?」競争相手がいなくなるのだから。

・「なぁなぁ聞いたか?聖フィアナの話!」喜々として生徒達が話している。その顔に笑みは浮かんでいるが、人を貶める噂をする時の顔というのはどこか歪だ。【12月25日】

・『悪い――そいつらを、止めてくれ!』危機迫った迅会長の声。何故彼が謝るのか、目の前のこれが何なのか、そんな事を考えるより先にソレは動いた。【12月26日】

・鋼の巨体。獣に似た姿のそれは、体躯をしならせてこちらに飛びかかってくる。紙一重でかわし、体勢を整えると同時にアレセイアを起動。今は戦うしかない。

・結局あれの正体は分からなかった。会長に聞いても「すまない。気にしないでくれ」の一言。だが気にしないでくれという割には彼の顔は若干疲れているように見えた。【12月27日】

・【ほめてほしかった てをにぎってほしかった】声は懺悔の様だった。

・「しらなかったんですーきいてなかったんですー!そーんな受身で通じるのはおこさまの時だけだって知ってるぅ〜?」クスクスクスとそれは嘲笑う。

・「何にもきかない、何にも見ない、興味あることしか覚えない、そんなんじゃぁ社会に出た時生き残れませんよ〜?なーんつって!君はここでサヨナラバイバイ永遠に!なんだけどね!」その瞬間は、あまりに突然訪れた。【12月30日】

・地面の消失。厳密には足元の地面が突然泥の様な闇に変わった。ずぶりと自重で足元が沈み込み、バランスを大きく崩す。

・引き抜こうにも足元がおぼつかず沈むばかり。這い上がろうにも周りに掴むものが何も無い。「あっははははは!お似合いお似合い!すっごぉく無様だよぉ〜」バクの面のそれは嗤う。

・腕を組み、指先で神経質そうにトントントンと叩きながら、それは嗤う。「見ない、聞かない、覚えない、そぉんなふざけたやつらにはお似合いの最期ってやつぅ〜?」【12月30日】

・もちろん、今まで休んでいた人間の復帰だ。興味本位で人も集まるだろう。それに対して少し高揚しているだけともとれる。だが、それにしては会話の内容がおかしい。

・「お前ほんとーにそのゆめじさまってのに会ったのか?」取り囲んでいた一人がそんな事を聞く。すると彼もにこやかに笑って頷いた。「うん、会ったよ。和服の、小さな女の子だった」

・「夢の中でゆめじさまにあって、願いを叶えてもらった。なんでも叶えてくれるって言ってたよ」陳腐な、どこにでもありそうな話だ。だが、周りの熱狂っぷりは異常だった。

・「おい、――を見なかったか?」慧に問われて少し考え、首を横に振る。そういえば今日は一度も見ていない。【12月28日】

【よいち】
・学生の、特にこんな閉鎖された町の噂は早い。あっという間だろう。それは分かっている。だが、広まり方が異常だ。

・手元に現れたそれをしげしげと眺める。どう見ても違う。アレセイアは確かに起動しており、召喚の光と共に現れたこれは自分の特権ではない。【12月27日の記憶】

・「んー……」迅会長は少しくすぐったいような、悲しそうな、そんな複雑な表情を見せた。「俺はお前らを巻き込みたくねぇんだ」これくらいしか出来ないから、と彼は言った。【12月29日】

・「あらぁ、他校の心配余裕あるなんて優しいのねぇ」くすり、と巴絵は言う。「聖フィアナがほんとぉにカルト教団だとしたら、貴方達の事も狙ってるかも知れないわよぉ?」妖艶な笑みで、囁くように。

・例えば、と彼女は言う。「生贄、とかぁ?」随分物騒なことを言うものだ。聖フィアナも同じ生徒だろうに。そこまでけなすものだろうか?【12月25日】

・だが、これは見た事がある。別の特権者の召喚物。なら、考えられる事は「特権が入れ換わっている」ということだ。【12月26日】

・【さみしくないっておもった でも ちがった】それは声のようにも、脳裏にテキスト表示されたようにも感じた。はっきり視たわけでもなく、聴こえたわけでもない。感じただけ。

・『誰か――返事をしろ。応答、しろ』いつもの彼とは違う、疲れきった声だった。いや、そうではない。本来、届く声の主が違うはずだ。

・「ゆめじさま」の噂。いい加減物事の現実の区別がつく高校生ならば分かる筈だ。それは噂に過ぎないと。特権者の様に非日常を体験しているならともかく、一般の高校生が分からないはずがない。

・だがこれはどういうことだというのか。誰もかれもがゆめじさまの噂をしている。まるで取りつかれた様に。同じ事ばかりを。【12月27日】

・「少しは現実を見たらどうだ。願いを叶える存在などいないに決まっているだろう」冷ややかな慧の声が聴こえた。どうやら一般生徒に苦言を呈していたらしい。だが一般生徒の熱は冷める事が無い。

・「だって言ってたんだって!復学してきたあいつが見たって!」慧の顔が一瞬怪訝そうに歪んだ。見た、とはまさかゆめじさまのことだろうか。

・「夢に堕ちるって噂は夢世界の話が歪んで広まった話だと思うんだよね。なら、この噂にもどこか出所があるのかなぁ」特権者は呟いて考え込む。出所は間違いなく、目覚めた彼らだろう。

・「……たりねぇ」ぽつり、と迅会長がこぼした言葉。それは本当にうっかり出てしまったものなのだろう。その証拠に彼はハッとした表情でこちらを見てごまかす様に笑ったから。

・「おい!大ニュースだぜ!病院送りになってたやつらが戻ってきたんだって!」一般生徒の言葉に一斉にざわめきが広がる。

・病院送り。夢に堕ちた生徒たちは一般生徒達の間でそう呼ばれていた。だが、彼らが一斉に目覚めるなんて聞いた事がない。昨日の戦いの成果だろうか。

・昇降口は人であふれかえっていた。普段は気にも留めていない様な雰囲気だったが、やはりどこかで心配している生徒が多かったのだろうか。【12月27日】

【透子】
・「そういえば知ってるかしらぁ?」巴絵はずい、と身を寄せて内緒話をするように囁いた。「昨日のレテ騒動、皐月院の坊やが仕掛けた事らしいわよぉ?」【12月27日】

・ひやり、と身体の芯に氷を入れられた様な感覚。とんでもないことをさらりと口にするものだ。だがあくまで“らしい”だけだ。だが、あの時現れたレテは、化け物は、確かに――鋼の姿をしていた。

・「うかうかして皐月院の坊やたちにやられないよう気をつけてねぇ」ひらひらと巴絵は手を振る。「あ、それとぉ、私と同じ白衣の男見つけたら戻る様に言ってくれないかしらぁ」【12月27日】

・「私、あの子に願いを叶えてもらったの。ゆめじさまの友達になるって約束で」ゆめじさま。町の名前でもあり、神社に祭られた神様もそんな名前だったはずだ。【12月27日】

・彼女の言葉を信じるならばそれは小さな少女の姿で、友達になれば願いを叶えてくれるという。なりたい自分になるという願いを。

・「アディオスグッバイさようならぁ〜」その言葉が耳に届いた最後の音だった。世界は瞬く間に闇に、無に支配され、食われていく。【12月30日】

・あぁ、出なくては。ここから出なくてはならない。帰らなくては。このままでは間違いなくゲームオーバーだ。足掻かなくては。【12月31日 12時59分?????????】

【一樹】
・「ボク達はキミらに背負わせ過ぎた。今度はボク達がキミらを守る番だと思うんだよね」だって、格好つかないだろう?と椿会長は言う。「前線に出ない将軍に誰もついていこうとは思わないよ」

・「それに――」少しだけ躊躇う様な気配を見せた後、椿会長は続ける。「君達の世代には特に、背負いきれない程の罪を犯してしまったから」

・聖フィアナも皐月院も、何が目的で動いてるのか。そういうと巴絵は笑った。「そりゃ知りたいものが、手に入れたいものがあるからでしょぉ?おねえさんも、あなたも、みんな自分のエゴでしか動かないもの」

・妖艶、という言葉が似合う。そういえば、クラスメイトが言っていた。巴絵は随分昔からこの研究所に在籍しているのだと。

・美しさを損なわない永遠。彼女であればあるいは、と思ってしまうほどなのだから恐ろしい。「巴絵さんっていつからここにいるんですか?」近くに居た特権者が問いかけた瞬間、思わず彼女の反応を見てしまった。【12月28日】

・「聖フィアナは母体がカルト教団で、特権も魔術系。皐月院は母体が軍系で特権も機械系」特権者の言葉に思考する。確かに能力は母体に大きく左右されるらしい。だが、それは校風で左右されるのではないだろうか。


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円・開封記憶

【勇魚】
●「見ろよ魔女が買い物してるぜ」「魔術に使う生贄探しじゃね?」げらげらと笑い声が聞こえる。振り向かなくても分かる。彼らの視線はこちらに向けられているのだろう。


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おしん・開封記憶

【轍】
●「まさか――」弓弦はそう静かに呟いたかと思うと、次の瞬間焦燥の色を顔に浮かべて振り向いた。「ここは主に託すぞ! このままではとんでもない事になる――っ」

●静かだ。普段なら群れとまではいかないが町を歩くと蠢く影があって、好戦的なやつに当たってしまえば戦う。そんな感じだったのに。

・静かだ。恐ろしいくらいに何も無い。平和な方がありがたいとも思うが、同時に不気味だとすら感じてしまう。

・「ごめんねぇ。今帰省電車が来ないのよぉ」巴絵の残念そうな台詞に驚く。帰省できない?何か事故でもあったというのだろうか。

・「ん〜今目下調査中って感じかしらぁ。年明けはこっちで過ごしてもらうしか無いかもねぇ」他人事のように――というより他人事なのだろうか。そういえば彼女から帰省の話を聞いた事がない。

・とにかく戦うしかないのだろう。アレセイアをいつものように起動させ――。「……?」違和感があった。

・思わず声を失った。今確かに授業が終わり、帰るところだったはずだ。夢世界の事を意識してもいない。考えてすらいない。だが、ここは夢世界だ。

・偶然チャンネルが繋がる事もあるのだろうか。とりあえず帰ろうと現実に意識をむけ、そこで再び固まる事になった。

・一体何を知っているというのか。だが、正直今はそれどころではない。目の前のレテはまだ健在で、仲間と数人がかりでも苦戦するのだから。【12月30日の記憶】


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senka・開封記憶

【雪織】
●「我らが会長殿は共闘がお望みのようじゃからのう。見過ごすわけにもいくまいて」やれやれとでも言いたげに肩をすくめて弓弦は扇子を構えた。同じく戦闘態勢を整えながら目の前をそれを、ずいぶんとでかい敵を見た。

●暗い、酷く暗い。上もなければ下もなく、今立っているのか寝ているのかもわからない。浮遊しているようなのに、そういった違和感はない。ただ、穏やかな闇がそこにはあった。

・【12月31日】記憶データがありません。

・「げぇむおーばー。またのご挑戦をおまちしておりまぁす」クスリとそれは嗤う。同時にぶつりと、目の前の風景、が。

・『嘘――こんな、早過ぎる……っ!』椿の焦り交じりの声が届く。『まだ猶予は――いや、まさか、向こうに知られ……?』ぷつり、と声が途切れる。恐らく共有が溶けたのだろう。【12月30日の記憶】

・正直こんなでかさは見た事がない。今まで出会ったレテが可愛らしく思える様なでかさのそれは、待機を震わせるような声で咆哮した。

・「いつか――」遠い目で、細い背中で、彼は言った。「いつか時が来ても、お主は覚えているものかのう」その言葉の意味が、良く分からなかった。

・最近は噂ばかりだ。女子校の背後について、何故か再熱した夢世界について、そして、あいつらが広めだした新しい噂――。



【学校情報の開封・夢路第一】
・【夢路第一中学校・高等学校】上薙市立の公立校。だが、資金、運営方針、教員採用に関して一切上薙市は関わっていない。実際は国立の研究機関が運営をしている。表向きの理由は「日本の将来を担う子どもたちの可能性と想像力を伸ばす教育環境造りのためのモデル校」。実際は夢路町のみに展開している「夢世界」の研究と実用化。

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