深淵にて蠢く悪夢
「ぁあっぁぁぁぁあぁぁっ許さない赦さないゆるさないユルサナイゆるさないいいぃっ!」ぎちぎちぎち、ギチギチギチ。
怨嗟の声に混じって何かを握りつぶす音が聴こえる。
「いや、嫌よ嫌、嫌嫌嫌嫌消すなんて嫌よ消させない殺させない消えたくない」
闇に塗りつぶされた世界で、ただ一人の白い少女。
「嫌、嫌よ。嫌、いや、イヤ、許さない。絶対許さないんだから。夢世界をけそうだなんて、そんなこと絶対、絶対許さないんだから――っ!!」
異形の少女、夢寐は虚空に向かって呪いを吐き続ける。
「あんただって全然役に立たないじゃない!どうにかするんじゃなかったの?!」
誰もいない空間で、誰かに向けて叫ぶ夢寐。
「だから嫌いなのよあんた達!あの時だって安全だって言ってっ……た、の――に――」
突如夢寐の声が止まった。全身をガクガクと痙攣させて瞳の焦点がぶれる。
「あ、あ……ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁアアァアア!!」
獣の様な叫びが少女の口から迸った。だがそれも数瞬で、電源が切れた様に彼女はその場に膝をついて崩れ落ちる。
異様な沈黙が場を支配した。
「ア……あはは、あははははは」
膝をつき、うなだれたままの夢寐の口から虚ろな笑い声が漏れる。
声は徐々に大きくなり、やがて虚ろだった夢寐の瞳に狂気の光が灯った。
「アッハハハ!アハハァ!」
闇しかなかった世界が歪む。仄かに輪郭が生まれ、階段の様なものが夢寐の前に現れる。
何か近づいてくる気配がした。誰だろう?否、誰でも良い。
「殺してあげる♪」
狂気を貼り付け、夢寐はチロリと舌なめずりをした。