誰でもない何かの問いかけ
まだ足掻く君に、例えばの話をしよう。例えば、今日すれ違った人間を覚えているだろうか。
例えば、今日駅の改札口にいた人物を覚えているだろうか。
例えば、今日コンビニのレジに居た人物を覚えているだろうか。
例えば、それが毎日会う人間ならば、よく覚えているだろう。
例えば、好意、嫌悪、興味。何かしらの感情をその人物に抱いていれば覚えているだろう。
だが、人は全ての人間に対して感情を向ける事などありえない。
君に記憶すらされなかった人物は、脳裏に抱いた人数の数倍・数十倍存在する。
認識されながら、忘れ去られた存在。個であるはずが、全としか認識されない者。
ワタシとは、そういうものだ。
かけがえのない「誰か」になる事を切望し、誰でもない何かであることに絶望した。
君達には分からないだろう。
かけがえのない誰か。選ばれ、力を得た君達には。
だが、君達もいずれ知るだろう。
所詮、外に出てしまえば君達とて「誰でもない何か」に変わる事に。
ゆえに、ワタシは永遠を望む。
明ける事のない黎明を。暮れる事のない黄昏を。
ここでワタシは特別なのだ。
顔も知れず、名も無く、誰一人覚えていなくとも。
ここでだけは、ワタシは特別で居られるのだ。
それを望むのは、罪なのだろうか?